「親子が少し成長し、最後に涙を流すのは・・・?」それでも、やっぱりパパが好き! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
親子が少し成長し、最後に涙を流すのは・・・?
マーク・ラファロはユニークな俳優だと思う。いろんな作品でいろんな役柄を演じているのだけれど、観る度に「きっとラファロもこういう人なんだろうな」と思って観てしまう。今回もまさにそうで、躁鬱だとは思わないにしろ、ラファロって困ったところもあるけどきっと優しいパパなんだろうなぁと、根拠もないのに勝手に思ってしまった。それほど、リアルで説得力のある芝居をする、ということだ。演じているという力みがまったくない。だから演技に芝居臭さが出てこないのだ。お気に入りの俳優の一人だ。
この作品は、躁鬱を患ったまま父親になった男が、二人の娘の面倒を一人で見なければならなくなった一年半を描く。その背景にはアメリカという国が抱える家庭問題のこと、職業のこと、教育のこと、人種のこと、そして病気のこと・・・という具合にシリアスにしようと思えばいくらでもできそうな題材が転がっているし、現代のアメリカないし日本の家庭問題にも通ずるようなテーマもあるのだが、映画はそれらを決してドラマティックに演出して利用するということを一切せず、身近な出来事の積み重ねで物語を紡ぎ、あくまでも父と娘、夫婦、親子、の「絆」や「関係性」に焦点を絞り続けた。そのうえで、軽やかで爽やかでコミカルに描かれてはいるので、余計に考え入るものがあり、胸に残る作品だった。
この映画が特徴的なのは、親が子供を見つめる視点ではなく、子供が父親を見つめ、愛の手を差し伸べるような視点で描かれていることだ。「親が子供を無償で愛する映画」ではなく、「子供が親を無償で愛そうとする映画」なのだ。不完全でダメな父親だと子供たちが誰よりも理解している。そのうえで、この父親を愛してやろうという娘たちの情熱がこの映画の原動力だ。父親のことを精一杯憎しみ、精一杯ケンカし、それでも精一杯愛情を注ぐ娘たちの姿と、飄々としながらもいつも苦悩し続けている父親の姿が、なんとも不思議な感動を呼ぶ。
映画が終わっても、この家族は何も変わらず、父親も何も変わらず、何も解決しないままかもしれない。それでも、どこか希望の光が見えるような柔らかいエンディングが待っている。親は少しだけ子離れをし、子供は少しだけ親離れをする。そんな結末で、嬉しくも切ない涙を流すのは、親だったか?娘だったか?それがこの映画の答えだ。