「原材料だけじゃ魂までは造れない」鋼の錬金術師 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
原材料だけじゃ魂までは造れない
毎度ながらの原作未読で恐縮。
タイトルと絵柄は観たことあるよなあと思って
軽く調べてみると、原作コミックは全27巻、発行部数は
ななんと7000万部超という特大ヒット作だそうで。
公開前から随分ネットで叩かれているようだったが、
熱心なファンも多いだろうし、そういう人は中途半端な
映画化なんて絶対許さないだろうなと少し納得。
自分も未だに「『サイレントヒル:リベレーション3D』
の監督は決して許されねえ……」と考えてるし。
(鑑賞せずに非難するのはダメだけどね)
さておき今回、原作のキャラやあらすじは極力
調べずに鑑賞したので、映画単体としての
レビューとして書いていければと思う。
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個人的な結論を初めに書くと……イマイチ。
恐らくは原作準拠と思われる意外とハードなドラマや
キャラ設定は好みだが、締まらないアクションや
演技・演出のチープさがそれらをマイナス方向に
帳消しにしてなお余りある。
2.5~3.0で迷ったが、先日の『亜人』を3.0判定
とした以上、本作をそれより上に据える気には
ならないので2.5判定とした。
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とはいえまずは気に入った点から書く。
原作の絵柄からは予想もできなかったが、
こんなヘヴィな要素を含んだ物語だったんすね。
まず、錬金術は魔法のように何でもできる訳ではなく、
あくまで等価交換であるという設定が面白い。
質量保存の法則や、基にした物体に由来するもの
しか造り出せないというルールが大前提としてあり、
それ以上の事を行うにはそれなりの代償が必要となる。
これはアクションシーンにも活きてくる設定だし、
さらには『魂を造り出す為に人は何を犠牲にするのか?
≒魂とは何か?』というテーマも浮かび上がってくる。
人体錬成の失敗による結果のおぞましさと重さ、
科学的好奇心の為に己の妻子すら犠牲にする男の狂気、
長年探し求めていた『賢者の石』が実は多くの人命を
犠牲にして精製されたものだったというダークな展開、
利害関係のみで繋がった、決して一枚岩ではない悪役たち、
『賢者の石』をめぐる軍内部の陰謀など、
物語や設定に惹き付けられた点は幾つもあった。
何より、そんな非情な世界の中で迷いながらも
“人間”として弟アルの肉体を取り戻そうとする兄エド。
生身の左腕で弟を殴り続ける場面には胸が熱くなった。
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だからこそ、
物語へ没入させるのを拒むようなチープな演出の数々がキツい。
冒頭、金髪の日本人の子役が英語名で呼ばれる
違和感や、母を失った悲しみがこれっぽっちも
伝わらないその演技に早くも辟易しそうになる
(まあ本作に限らず邦画大作における子役の
演技の酷さについては僕は半ば諦め掛けている)。
続く戦闘シーンは邦画VFXの進歩という点では
なかなかだけれど、何故か無人の街で闘ったり、
役者自身が演じるアクションは大したこと無かったり。
前半で書いたヘヴィな物語が見え始める辺りからは
多少は楽しめるようになったが、それでも全編を
通してのアクションシーンのニブさ野暮ったさは
如何ともし難い。ホムンクルスは3人ともチマチマした
攻撃しかしないし、対する主人公も壁を造ってのんびり
お話したり、なんでこんなに疎(そ)で粗(そ)な
アクションシーンしか出てこないのか?
あれだけ恐ろしげに登場した大量のホムンクルス兵も、
「数の暴力ハンパ無いわァ恐ろし」と思ってたら、
一個師団の奮闘だけですぐに鎮圧でありゃりゃ。
結局ほとんど脅威じゃ無かったって事?
ひょっとしてホムンクルス兵による被害者数って
1人だけ? 1小日向だけ?(そんな単位はない)
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追い討ちを掛けるのがキャラ描写の薄さ。
「自分の魂は偽物では」と疑心暗鬼に駆られるアルの
心情描写が足りないので肝心の兄弟喧嘩のシーンも
唐突に感じられるし、アルの活躍する場面も
少ないので、主役2人の存在感には差がある。
ヒロインも、幼馴染みであるという点や整備士としての
活躍などの描写が薄いのでお飾り以上の存在感は殆ど無い。
マスタング大佐は逆に、主役を差し置いて
そんなに闘(や)っちゃっていいのかよと。
タッカーはエドを挑発したかったという理由だけで
わざわざ逃げ出したの?とか、ホムンクルスの皆さんも
何が目的だったの?とか、尺の都合かも知れないが
エド以外のキャラはフワッとし過ぎているし、
石丸謙二郎や本郷奏多などは仰々しい演技から鼻に付く。
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以上。
骨子となるドラマには見応えがあったので、
『これを機にマンガの方を読んでみるか』と
思わせるという点では成功してるのかね。
兎にも角にも、
最近のマンガ実写化大作って原作の出来と
VFXの進歩に頼り過ぎじゃないかしら。
秀作もたまにはあるが、大部分は、違う。
人物描写や役者自身のアクション・演技にもっと
力を入れないと、結果的には原作ファンにも
映画ファンにもそっぽを向かれるだけだと思う。
言うなれば錬金術さね。原材料とガワ(外観)
だけ揃えても、原作の魂までは作れないという、ね。
あ。あと子役の演技指導にも力入れてッ。
<2017.12.01鑑賞>
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余談:
ここは不満点というよりピンと来なかった点だが、
『真理の扉』と謎の人物。あれって、何か代償を
差し出す意思を見せれば、錬金術師なら誰でも
会うことが出来るような存在なのかしら。
原作読めば分かるって? 27巻全部読め?
やれやれだぜ……(それマンガ違う)。