「創り手側の下手な政治信条はいらない!」機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
創り手側の下手な政治信条はいらない!
騙された!
としか言いようがない。
ルウム戦役でのシャアの活躍が本作で観られる!と誰もが想ったはずである。
誰がルウム戦役に至るまでの政治劇やサイド2における悲哀の恋愛劇を観たいと思うか!
正直いらない!
総監督の安彦良和がコロニー落としという愚行を真っ向から描くのがこの章の使命だと述べているが、我々、いや少なくとも筆者には安彦のそのような安っぽいヒューマニズムはガンダムにはいらない!
長い漫画連載の中での1エピソードとしてなら入れても構わない。
しかし、これは特別料金というレイトショーであっても優遇の効かない高い入場料金に設定されている映画である。
それでいて上映時間も83分と短い。
あまりにもルウム戦役へたどり着かないものだから筆者は途中から心配になって時計を何度も見た。
シャアがザクを駆って加速した際も時計を見たが、エンドロールの時間も計算に入れると残り時間があまりないように感じた。そしてあのシャアが突っ込んで画面がホワイトアウトした瞬間、こちらもある意味白い灰になってしまった。
安彦は次回『Ⅵ 誕生 赤い彗星』の前半はルウム戦役の本番を描くとインタビューで発言しているが、あまり鵜呑みにはできない。
今の世界情勢を見ていると地球連邦のような組織は結局絵空事であることがわかってしまっている。
世界は民族や宗教で棲み分けされていくことの方が幸せであろうし、現在各地で起こる葛藤や衝突もそれらに起因することが多い。
だからガンダムの中で展開される政治はしょせん時代に即してはいない。
神林長平が『戦闘妖精雪風』において異星人が襲来しても人々は異星人も一国家と見なして各国は争いをやめなかった設定にしているが、それが慧眼であろう。
仮に地球連邦があったとしても地球に存在する全国家が参加するとは思えないし、むしろあり得そうなのはどこかの大国がジオンに肩入れして結局今の国連といっしょで地球連邦は各国の思惑で1つにはまとまらずに有名無実化し、地球でも相反する国家間で戦争が起きるシナリオではないだろうか。
それなのにもっともらしくジオンと地球連邦という2つの対決軸で延々と政治劇を展開されても白けるだけである。
観たいのはただ1つ、ルウムにおけるモビルスーツの活躍だけである。
シャアや黒い三連星が画面いっぱいに暴れ回る姿である。
さらに言うならそんな下手な政治劇だけを展開するならまだしもところどころに挟まれる小さいエピソードがどことなく浮いている。
アムロやカイ、ハヤトの愚行も別に観たくはない。
ましてやサイド2のユウキとファン・リーの恋の下りは本当に本作にはいらない。桜は結構だ!
THE ORIGINシリーズは基本的にシャアとセイラとその周辺だけを描けばいいのではないだろうか?
無理に群像劇にして話が逆に分散してしまっている印象を受ける。
ハモンの歌にも問題がある。はたして一曲全部流す必要があったのだろうか?無駄に長く感じた。
池田秀一の声はさすがに齢を隠せなくなっているが、それはもうここでつつくのはやめよう。映像全体は抜群に素晴らしいのだから。
次回予告を観る限り次作もマ・クベを中心にしてまた政治劇が続いていくように感じられる。
また安彦自身も次作を「話全体は過去編の総まとめ」になると述べている。
あまりいい予感がしないが乗りかかった船である。筆者は次作も観るが、結局はそういうファン心理を利用して彼ら創り手側の下手な政治信条を観せられているとしたらそれは言語道断である。
つい最近リメイクに大失敗した『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』がある。
リメイクするのはいいがファンあってのリメイク作品であることを制作側に少しでも汲み取ってもらいたい。