「肉体にダンスと音楽が息衝いた、まさに血湧き肉躍る作品」ハートビート 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
肉体にダンスと音楽が息衝いた、まさに血湧き肉躍る作品
奨学金を受け、NYの名門校に入学したバレリーナと、豊かな才能を持ちながらエリートとしてではなく路上アーティストとして食つなぐバイオリニストの恋と夢の物語だ。この映画の一番の特色は、「クラシック」「バレエ」を取り上げると同時に「コンテンポラリー」「フリースタイルダンス」の魅力を取り上げ、対極にありそうなそれぞれの音楽の要素を融合させている点だろう。これが成功するかが映画の一番の鍵となる。先に言ってしまおう。はっきりと成功だと思う。違う特徴を持った音楽とダンスの出会いと調和が体感でき、非常にわくわくする作品だった。
この映画はもう音が鳴った瞬間、そして体が音を捉えた瞬間に、すぐさま心を掴まれる。この映画では、音楽やダンスは自己表現であり、対決であり、乱闘であり、ロマンスである。そういった感情の描写を、ダンスというメタファーで表現したシーンが多数出てくる。駅のホームでのダンス対決に一瞬怯んだが、あれはケンカのメタファーだと捉えれば理解できるし、ダンス・ミュージカルだと取ればなお分かり易い。
何しろ、ダンスが本物だから見ごたえが違う。オープニングのダンスシーンのわずか数秒で、もう彼らがレベルの違うダンサーたちだということが素人目でも分かるほどだ。動きのキレがまるで違うし、作り上げられた肉体からしてもうまったく違う。俳優が映画のためにダンスを訓練することも素晴らしいことだが、ダンスが肉体の中で息衝いているパフォーマーたちと比べてしまえば後者が勝つのも当然だろう。その分、演技が拙いのは致し方ないだろうか。
ストーリーは、実に単純明快な青春サクセスストーリーだ。設定も展開も世界観もすべてが雛型通りという感じ。学園物のアイドル映画か海外ドラマでも見ているかのよう。ダンスが本物なだけに物語の薄さにはケチをつけてやろうか、と度々思うのだが、その都度ダンスや音楽の素晴らしさに絆されて許してしまいたくなる自分がいた。最終的には「ダンスと音楽を魅せるのにはこのくらい単純なストーリーで正解かも」なんて思い直した始末だ。
最も印象深かったのは、最後の大会で披露したダンスの中で、同じ振り付けを「バレエ」と「ヒップホップ」のそれぞれのアプローチで踊るシークエンス部分だ。振り付けはまったく同じなのだが、バレリーナのパフォーマンスとヒップホップダンサーのパフォーマンスで全く表現方法が違い、それがユニークで面白かった。こういう面白さを作品内でもっと見たかった気がする。