「小さな少年の戦争と大きな奇跡」リトル・ボーイ 小さなボクと戦争 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
小さな少年の戦争と大きな奇跡
第二次世界大戦下の米国カリフォルニアの漁村オヘア。
「リトル・ボーイ」と揶揄される少年ペッパー(ジェイコブ・サルヴァーティ)の父親(マイケル・ラパポート)は、長兄が徴兵検査に引っかかったがために代わりに出兵することになってしまう。
フィリピンで日本軍の捕虜となった父親に早く帰ってきてほしいペッパーに対して、懇意にしているカトリックの司祭(トム・ウィルキンソン)は、古くから伝わる善行リストをペッパーに手渡す。
そこに書かれた善行を積めば、神の御意により父親が帰還するかもしれない、として。
そして司祭は、そのリストに、町で迫害を受けている、収容所から帰還した日系人のハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)と友だちになること、ということを付け加える・・・
というハナシで、少年の目を通して、戦闘場面を出さずに、銃後の戦争を描くという、なかなか上手く描くのは難しい題材の映画。
この映画の面白いところは、ペッパー少年が信じているものが、善行による神の御意ではなく、コミックブックのヒーロー&マジシャンのベン・イーグルの能力。
つまり、仮面ライダーやウルトラマンとかと同じレベルのパワー。
その上、件のコミックブックの映画化した際の主演者(ベン・チャップリン)が、ベン・イーグルとして映画とともに舞台での実演を行っており、その実演の舞台でペッパーが(なんらかのトリックにより)超能力を披歴することで、彼自身が超能力を持っていると信じるあたりが面白い。
ということで、この映画、通常の「リスト制覇もの(リストに書かれたことをやり遂げて、何らかの結果を得るというパターン)」に加えて、主人公が存在を信じている胡散臭い超能力で何らかの奇跡が達成するという、ミステリーでいうところのミスリード的な面白さがある。
と、そんな面白がってばかりいられないところもあるのが、この映画の良いところ。
興味深いのは、町で敵視されているハシモトの存在。
かつて『愛と哀しみの旅路』で描かれた第二次大戦下の日系人の境遇。
息子を真珠湾で殺されたひともいて、日系人への憎しみが渦巻く中で、トム・ウィルキンソン演じる司祭のように理解者もいたあたりは、なかなか興味深い。
また、ペッパーとハシモトが友情を育んでいくのも、疎外者という共通点がふたりにあることもわかりやすい。
もうひとつは、タイトルにある原爆としてのリトル・ボーイ。
政府から戦争が終結されれば捕虜も帰還すると知らされたペッパーが、毎日毎日、日本の方角に向かって戦争終結の念を送り、それが、広島の原爆投下と重なっていくというもの。
新聞の見出しに書かれた「リトルボーイ、未知の力を発揮」の文字が勇ましくも、痛ましい。
そして、戦争は終結するも、父親は帰還しない・・・といったあたりの語り口の上手さは、ちょっと舌を巻きました。
その後どうなったかは・・・書かないでおくとする。
監督はメキシコ出身のアレハンドロ・モンテベルデ。
これが長編2作目らしいが、覚えておきたい監督である。