「26年後のサラダフォーク」マザーズ・デイ(2016) 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
26年後のサラダフォーク
「バレンタイン・デー」「ニューイヤーズ・イヴ」に続くホリデイ三部作(と日本の宣伝では謳われていたけど本国でもそう呼ばれているの?)の完結作。タイトルの通り「母の日」がテーマの群像劇になっている・・・のだけれど、「母の日」を掲げている割に、母性愛や家族愛と言ったものがあまり描かれていないような?むしろ、いずれの物語にも「ロマンス」が絡めてあり、元夫の再婚・結婚に踏み切れない女性・異人種間結婚・同性愛・・・という具合に、それぞれに「母親」の立場が登場するというだけで、別段「母の日」をテーマにして描く意義があるようなテーマではない物語ばかりが並ぶ。しかもそのいずれもが、実にバカバカしい解決法に寄って結論付けられていくからがっかりする。
車のブレーキが壊れたふりをして家族をパニックに陥らせて団結させたつもりになっても、根本的な問題は何も解決していないし、母を亡くして反抗的になった娘にプレゼントを与えてご機嫌を取ったってやっぱり何の解決にもなっていない。しかしこの映画は、そういう表面的な「解決」を積み重ねて済ませてしまう。なんだかな?
母の愛、母への感謝、母子の確執、母としての葛藤・・・なんて崇高なテーマはこの映画のどこにも存在していなかった。ただ母の日に託けたどうでもいいロマコメが立ち並ぶだけ。
唯一の収穫は、ジュリア・ロバーツとヘクター・エリゾンドが26年の月日を経て、同じテーブルを挟んで演技をするシーンがあることくらいだ。しかもそのシーンをゲイリー・マーシャルの映画で見られるという喜び。サラダフォークのセリフまで用意してくれて、こういうサービス精神は好きです。
それに・・・これだけ作品をこき下ろしていながらも、ゲイリー・マーシャル監督のことは絶対に嫌いにはなれない。マーシャルの人の好さというか、優しさがいつだって彼の作品には溢れていたから。必ずしも良作ばかりではなかったけれど、マーシャルの作る映画はいつも温かくて優しくてマーシャルの人柄がそのまま映画になったような穏やかさがあった。役者にもきっと愛されていたんだろうなぁと思えるくらいに、どんな大物たちもマーシャルの映画では肩の力を抜いて自然体でカメラの前に立っているように見えた。亡くなってしまったのが残念だけれど、最後の映画で、ロバーツとエリゾンドとマーシャルのリユニオンを見られたのは幸福だった。