「傑出した作品ではないけれど、好感が持てる小品」アスファルト りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
傑出した作品ではないけれど、好感が持てる小品
フランス・パリ郊外の古びた団地。
壁はボロボロで落書きだらけ、エレベーターも何度となく停まるというありさま。
そんな団地で起こる、ちょっと心地よい三篇の物語・・・
というハナシで、ひとつめは2階に住む頑固な中年男(ギュスタヴ・ケルヴェン)のハナシ。
ボロエレベーターの交換工事をしようと資金を募るが、件の男は「自分は2階に住んでいるのでエレベーターなんて使わない。だから金は出したくない」とゴネる。
「エレベーターは使わないこと」が交換条件として、その意見は取り入れられる。
しかし、すぐ後、男は自宅でのエアロバイク運動をしている最中に脳梗塞(か何か)により倒れ、車椅子生活を余儀なくされてしまう。
人目を憚り、夜間にエレベーターを使って団地を抜け出し、近くの病院の自動販売機でスナック菓子を購入していたところ、夜勤の女性看護士(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と出逢う。
男は、撮影中に事故を起こした写真家だと取り繕ってしまう・・・
ふたつめは、中層階に住む少年(ジュール・ベンシェトリ)と中年女優(イザベル・ユペール)のエピソード。
少年は、母親と二人暮らしだが、母親は働きに出かけていて、いつも不在。
ある日、同じ階に越してきたのは小柄な中年女性。
無愛想な彼女であったが、しばらくして、彼女が女優だということを知る。
30年近く前に彼女が主演したモノクロ映画を一緒に観た少年は、意外といい女優だなと交換を抱く。
そして、いまはもううらぶれた彼女であったが、過去の主演作が再度舞台にかかるということで、オーディションに挑もうとするのだが・・・
みっつめは、最上階に住むアルジェリア人の老婦人(タサディット・マンディ)のエピソード。
彼女は成人した息子と同居しているが、その息子は刑務所に収監されてしまった。
そんなとき、なにかの手違いで団地の屋上に不時着帰還した米国人宇宙飛行士(マイケル・ピット)は、迎えが来るまで彼女とどう叙せざるを得ない羽目になる・・・
そんな三つのエピソードは、特に物語が交差することもなく、それぞれで進んでいきます。
全体的は、灰色の空と団地の壁。
別に、明るくもなく、突き抜けることもなく、すっきりともしないのだけれど、へんに押しつけがましいこともなく、言っちゃ悪いが淡々と進む物語は、不思議に気持ちよい。
まぁ、少しばかりの隠し事はあるけれど、誰も悪意を持っていないあたりが心地よいのかもしれない。
三つのエピソードに唯一共通する「どこかしらから聞こえてくる、泣き声のような軋み音」の正体が、団地のゴミ捨て場の鉄製のドアの蝶番だった、というオチも、ヘンに捻っておらず好感が持てました。
本年、先に公開された日本映画『団地』よりも、ヘンな気負いやヒネリがない分、個人的は上とします。