「冷たいアスファルトが、じんわりと熱を帯びる幸福」アスファルト 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
冷たいアスファルトが、じんわりと熱を帯びる幸福
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3種類の小さな出会いの物語だ。本来出会うはずのない者同士が、些細なきっかけで出会う。そしてほんのわずか人生に変化を齎して去っていく。そんなさりげない街角のメルヘン。
寒々しい打ちっぱなしの集合住宅(映画では「団地」と訳していたかな?)に住む、決して裕福には見えない人々の暮らしの中に、ある日突然「他人」が介入してくる。それは、夜勤のナースだったり、今ではすっかり忘れ去られた女優だったり、宇宙から落ちてきた(笑)アメリカ人だったりする。それぞれ、出会うはずのない者同士なのだけれど、なぜか通じ合うところがあり、お互いの人生にささやかな影響を及ぼし合いながらひとときの時間を共有する。その温かさが、冷たいイメージの「アスファルト」の団地にじわじわと熱を与え、気が付くとほっこりと心温まっていることに気が付く。これは現代の街を舞台にしたファンタジーかもしれない。現実はこううまくはいかないかもしれない。けれども、映画を観ている間、その魔法を信じられたのは幸福な体験だった。
映画館でも、時折クスクスっと笑いがこぼれ、温かい時間だった。特に、アラブ系のおばあちゃんとアメリカ人宇宙飛行士の、成立しているようで成立しない会話の微笑ましさには何度も笑いがこぼれた。夜勤のナースについた嘘をきっかけに生きる活力を見出す男も健気で愛おしかったし、年の離れた女優と学生の交流も年齢や立場を超えた関係性に見入った。フランス映画がいつもいつも気難しくて気だるい映画ばかり撮っているわけではないと、改めてフランス映画を愛したくなる作品だった。
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