「他人から見ればすぐに分かること」モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
他人から見ればすぐに分かること
外科的なリハビリに来たはずの女性は、早々に自身の心の中の問題と向き合うことを、医師によって促される。
この時の医師の言葉遊びのような誘いが自然で洗練されているから、観客はここで一気に主人公の回顧シーンに没入していくことができる。
いくつもの腐れ縁を保っているような男のヴァンサン・カッセルの演技が素晴らしい。女からの視線を常に捉えていて、自分の虜にすることが得意な、最高に嫌な男をさらりと体現している。
彼女はその男から酷い扱いを繰り返されながらも、結局最後まで彼を憎みきれないし、忘れることも出来ない。
彼女の弟が冷静に端から見ているその視線こそ、観客の視線そのものだろう。第三者から見れば他の選択肢があるのだが、二人はお互いにこだわり続けるのだ。
ある程度の年齢になれば、そのこだわりが自分や相手を幸せにもすれば、不幸にもしてしまうことを知る。
だが、そのこだわりから自由になれない男と女のいかに多いことか。
なぜスキー板が交差して大怪我をする事故となったのかを彼女自身が気づいていないように、なぜ自分に安らぎを与えることのない男と離れることができないのかについても、本人が最も理解から遠い場所にいるのだ。
リハビリ施設で同年代の同性と仲良くならない彼女を見ている観客には自明とも言えることなのだが。
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