「圧巻24分のタップショー。茶番の前振りドラマはいらない。」TAP THE LAST SHOW Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
圧巻24分のタップショー。茶番の前振りドラマはいらない。
水谷 豊の念願の初監督作品。監督が夢であったように、作品も夢物語だったりする。
とにかくラスト24分のタップダンスショーが圧巻であることは間違いない。ここにお金を払ったと思えば、まったく損はしていない。拍手ものである。
しかし水谷豊ファンにはいいだろうが、"映画"としては初監督作品らしい未熟な完成度。タップダンスに対する思いだけが空回りして、"演技"、"ストーリー(脚本)"、"シーン構成(映像・編集・セット)"など、全体のバランスが整っていない。
HIDEBOHらに師事した、プロのタップダンサー清水夏生が主演。脇を固めるダンサー役者も皆、ホンモノのプロ。だからタップシーンに妥協はない。その代わりに、演技力が追い付かない。セリフの間や深みとか、学園祭かと思うほどツッコミどころ満載。共演に岸部一徳、北乃きい、六平直政などがいるけれど、脇役のサポートは全体に届かず。
演技者だけが悪いわけではない。そもそもストーリーが単純すぎるのである。天才タップダンサーとしての過去を持ち、いまは舞台演出家の"渡 新二郎"(水谷豊)。すでに栄光の面影はなく、酒に溺れる日々。そこに劇場支配人の毛利が現れて、立ち行かなくなった劇場の閉館のために、最高のショーを演出してほしいと頼まれる。そんでオーディションで次世代の天才を見つけ出して、ラストショーで、実の息子だったと世代交代を見せておしまい。
起承転結の"転"として、支配人が倒れて資金難による興行中止の危機になるのだが、スタッフとダンサーが準備を頑張るのはいいとしても。いちばんの原因となった資金難をどうやって乗り越えたかが腑に落ちない。ここがリアリティの欠ける要因のひとつ。
また、ひとりひとりのキャラクターの掘り下げがなさすぎ。いろいろと人となりを見せようとしているのだが、設定が浅いのか言動に謎が多すぎる。
時代に取り残されたような劇場で、そのラスト興行に無名ダンサーのショーを企画していること自体、興行のセンスがない。だから劇場が潰れる。舞台演出の渡 新二郎が客を呼べるという設定なら、ダンサーを辞めてからの空白期間に、どうしていたのかが描かれていない。実はここが映画としてオイシイところのはず。
やっぱり最後の"タップ"を見せようと前のめりになりすぎて、他すべてが追い付いていない。このチームのショーだけなら、映画で観るよりもナマで観たほうが100倍いいだろう。茶番の前振りドラマはいらない。
関係ない話だが、この映画のプロフィール(映画.com)において、水谷豊の紹介が、"杉下右京役でおなじみの俳優…"って、 あるのが、(これ書いた人は) "若いなー"と感じた。そっか、同世代の松田優作と共演しあった仲とか、"熱中時代"とか、もう水谷豊のキャリアは上書きされてしまったのね。
(2017/6/23/TOHOシネマズシャンテ/シネスコ)