「少年たちのちょっとおかしなひと夏の旅。」グッバイ、サマー 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
少年たちのちょっとおかしなひと夏の旅。
ミシェル・ゴンドリーの監督作品だけれども、彼の特徴的な作風とは少し違い、どこか正統派の少年物語のようでもある。とは言え「走る家」という発想やその光景は、確かにファンタジックなロマンがあるし、そもそも「少年時代」そのものがある意味ファンタジーだよなとも思う。
女の子のような容姿をした14歳の少年と彼よりも少し大人びた雰囲気の少年とが出会い、手製の「走る家」で小さな旅に出る。そんな夏休みの物語で、ひと夏を通じて少年たちが少し成長する、なんて書き方をすればあまりにありふれてしまうが、この作品はもっと瑞々しくて軽やかでどこかメルヘンチックでもあった。
この映画が違うのは、大人が少年時代を振り返るような描き方ではなく、今まさに少年時代を生きているその視点で物語が描かれていたところだ。過剰な感傷も懐古も挟まない。ついつい「大人が少年時代を懐かしむ」ような美化が青春映画には加わってしまいがちだが、この映画にはそれが無かったのがとにかく良かった。だから、大人のノスタルジーを喜ばせるようなエピソードはほとんどなく、特別な出会いがあるでも、特別な出来事と出会うでもなく旅は進む。けれども小さなハプニングの積み重ねが、少しずつ何かを引き起こしているのを感じさせつつも、それをさらりを描くさりげなさも含め、ひと夏の旅がチャーミングで愛おしかった。
主演の二人の少年たちがそれぞれに違った魅力を放っていて、それぞれにキュートだ。二人が笑っても怒ってもぶつかっても、すべてが眩しいほどのケミストリーを発生させていて、画面の中で二人が弾けるたびに映画の温度が少し上がるような熱を感じた(美少年はサムライヘアーにしても丸坊主にしても美少年なんだね)。
ミシェル・ゴンドリーの演出は、過去の作品を見ても時に華美になり過ぎて目にうるさいこともあったが、この映画ではそんなことは一切なく、寧ろゴンドリーは自分の手癖を最小限に抑え、代わりに少年たちにすべてを託していたように思えた。
テオの言っていた「個性は髪型ではなく、行動と選択で決まる」はまさしくその通りだと唸った次第。
どうでもいいことだが、私は「途中で髪を切る映画」が好きだ。