「こわかった。」淵に立つ だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
こわかった。
筒井真理子がよかったです。
8年前の隠し切れない色香と、
8年後の罪悪感と介護疲れが前面に出た容貌とのギャップたるや。
すでに50代半ばで、どんだけ色っぽいねん、震えるわと思いました。
河原でヤサカと連れ立って、夫と子供が見えない場所へ行くわけですが、
絶対なんかあるやろという妖しい予感が漂っており、
ヤサカの腕がアキエに伸びた瞬間、ほらみたことかーと心の中で叫びましたよ。
怖い映画です。
ヤサカと共犯者のトシオがどういういきさつで誰を殺したのかがわからないですが、
まあ、それは主題からそれるわけですから、なくてもいいのですが、
ヤサカの真意が全く見えないことが怖くて怖くて、震えます。
もしかするとヤサカは本当のことしか言っていないかもしれません。
もしかするとトシオへの復讐に来たのかもしれません。
蛍は何をされたのでしょう。
もしかするとヤサカではないかもしれません。
でも状況からして十中八九、ヤサカが手をかけた考えるのが自然でしょう。
ヤサカの息子であるコウジくんがトシオの工場に働きに来るっていうのは、
やりすぎちゃうんかいと思いました。
わたしは、家族とか夫婦とか親子とかに存在するといわれる愛ってものは、
おおよそハリボテだろうと思っています。
なので、いまさらいわれなくても知ってるよ、という気持ちで見ていました。
冒頭からトシオとアキエと蛍の食卓は、すでに心が離れているな、
と思ってみていたのですが、どうやらあれは幸せだった家族の1コマと
捉える方が多いとか。
そっか、私には娘出産後はセックスレスになり、既に関係が終わっている夫婦に
見えていたのだけど、見たいものに近づけて解釈しているのですね。
それはさておき、夫とは没交渉であり、自然とあった信仰をアイデンティティの
柱として自認しており、それ以外の汚い欲望などはあまり見つめないようにして
普通に妻で母であることに納まっていたが、ヤサカに気を許し、秘めていた欲望が
もれ出てくるわけです。でも、一線は越えなかった。
アキエの中途半端な欲望の発露と拒絶が、ヤサカの欲望を蛍への暴力(?)へと
転嫁させる一因になったかもしれない。一人娘の前途が大きくゆがめられたことの
悔恨で、アキエは病的に潔癖症になる(男が汚いと思っている?)。
トシオはヤサカが蛍に何かしたから、はっきりと彼を憎めてちょっと喜んでいるようにも見えました。
自分の罪を隠してもらっている罪悪感の方がより居心地が悪そうでした。わかるかもと思いました。
隠したい気持ちがあるからこうじくんをどう捉えるかも違う訳で。
いろんな解釈ができて、重層的と言いましょうか。
とにかく不穏に震えつつも見入ったのでした。
ラストは蛍とこうじくんだけが死んで終わっている夫婦だけが生き残ったのだとすれば、ちょっと酷すぎよと思います。どっちかわからなかったのですがね。