「疾風感いまいちだけど、予想外にホロリとさせられる感動作」疾風ロンド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
疾風感いまいちだけど、予想外にホロリとさせられる感動作
東野圭吾原作にしては、考えられないくらい突っ込みどころ満載のドタバタコメディ。推理サスペンスを期待している東野圭吾原作ファンの方も、本作では肩肘ぬいて、細かいことにこだわらず、トンデモなドタバタを笑い飛ばす余裕が必要でしょう。
一番の見どころは阿部寛演じる主人公の残念な男ぶり。「下町ロケット」で務めた熱血漢の社長から一転、頼りない中年男の役どころを演じます。息子から「ウザい」と邪険にされ、研究所での仕事はいまひとつ。捜索ではスキーを履いて雪山に出るも転んでケガをするなんていいところ一つもなし!阿部自身、大学時代以来というスキーにも挑戦。腕前は役柄通りにイマイチ!凄くリアルにへたくそで、笑いが絶えない演技になっていました。真面目にやっていることが笑えて、破壊力がある演技は阿部ならではですね。
吉田照幸監督は「あまちゃん」「サラリーマンNEO」など、保守的なNHKで革新的なコメディータッチの作品を手掛けてきた監督さんです。なのでこんなコメディでも、主人公と息子の親子関係など、思わずホロリとさせる人間ドラマが随所に描かれています。 ただそんな人間ドラマシーンが、本作の怒濤のような疾風感を損なっている面は否めませんでした。もっとキーアイテムとなる生物兵器菌を狙っている謎の人物との丁々発止の奪い合い、ドンデン返しにシフトした方がよかったのではないかと思います。
極秘開発された生物兵器菌が奪われたというのに、自己保身による隠蔽のため国家的危機を警察に通報せずたったひとりの部下に押しつけてしまう研究所の所長の無責任さ、無茶振りには、多くの観客は駄目出しするでしょうけれど、そこはドタバタコメディだと大目に見てやってください。その分、スキー・スノボーによる滑走シーンやあやしい人物とのすべりながらの「チャンバラ」格闘シーンは本格的な迫力あるもの。日本一広い野沢スキー場を縦横無尽に駆って、見どころ充分でした。
物語は、泰鵬大学医科学研究所からバイオセーフティーレベル4の新型炭疽菌「K-55」が盗まれたことがら勃発します。しかし、秘密裏に作った生物兵器なので警察に通報することも出来ません。
しばらくして所長の東郷宛には「K-55」を埋めた場所の目印というテディベアの写真と「三億円を用意しろ」という脅迫メールが届いたのです。要求に応じないと菌はばらまかれて多くの人が死んでしまうと東郷はパニックを起こします。これは、全国民を人質にして身代金を要求する内容だったのです。
それなのにこの直後、警察から以前研究所を解雇された葛原が死亡したという連絡が入ります。この葛原こそが、犯人だったのです。
葛原の遺品には「K-55」は無く、遺された手掛かりは、「K-55」が埋められた目印と避けるテディベアの写った7枚の写真とテディベアに埋め込まれた発信機からの信号を受信する受信機だけでした。しかも発信機の電源は4日後の金曜日までしか持たない!さらに気温が10℃を超えると容器が破裂するため、ほっとくと春先には大惨事となってしまいます。
東郷は、主任研究員の栗林和幸に大至急「K-55」を回収するように命令します。無理難題を突き付けられた栗林和幸は、写真からテディベアの居所を推理した息子の秀人とともに野沢温泉スキー場に向かいます。
栗林は野沢温泉スキー場でテディベアを捜索し始めますが、久々のスキーで醜態を晒すばかりで、立ち入り禁止区域で深雪に嵌り救助を呼ばれ、翌日は滑走禁止の林の中へスキーで突っ込み足首靭帯を負傷してしまいます。両日共に栗林の救助を行ったスキー場のパトロール隊員の根津とプロスノーボードクロス選手の千晶から栗林の行動を不審に思われたため、栗林は咄嗟に「新薬を隠されてしまった」と二人に嘘をつき、二人を「K-55」捜索に巻き込む事に成功する。しかし、そんな彼らの一部始終を見つめる不審な男がいたのでした。
何といっても、テディベアと一緒にあるはずの「K-55」が、とんでもないところからの発信を受信するところが意外でした。しかも埋められているはずl「K-55」なのに発信元が移動しているとはどういうことでしょう?
さらに栗林サイドや付け狙うあやしい人物サイドが、それぞれ「K-55」をゲットしたつもりでいて鮮やかにドンデン返しが繰り返されるところは、東野圭吾の面目躍如といったところでしょう。
ラストにある方法で、栗林が東郷所長にギャフンといわしめる展開も痛快でした。