「人間として歴史を理解するということ」奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
人間として歴史を理解するということ
パリ郊外の公立高校。
歴史教師アンヌ・ゲゲン(アリアンヌ・アスカリッド)が担任を受け持つのは、1年生の中でも成績が悪い生徒たちが集まったクラス。
他民族国家フランスの縮図のように、そのクラスも種々さまざまな人種がいる。
生徒たちは、良く言えば、自我が強く、悪く言えば、わがままなガキんちょばかり。
しかし、ひとりひとりの生徒を尊重するゲゲン先生は、みんなから信頼されていく。
そんなある日、ゲゲン先生はみんなに提案する。
ナチスに虐殺された子どもや若者たちについて考え、その内容を全国歴史コンクールで発表しないか、と・・・
というストーリーは、実話の映画化で、当初、反発しあっていた彼らが、テーマに取り組むうちに、互いを理解しあっていく。
ストーリーだけを書くと、お定まりの映画ということになるのだけれど、根底にあるのが、フランスの他民族性。
この高校だけでも、29もの人種の生徒が通っているから驚き。
見た目はもちろんのこと、宗教、習慣も様々。
互いを理解することは、なかなか難しい。
そんなあたり、この映画では巧みに描いている。
ひとつは冒頭のエピソード。
卒業間近の3年生のイスラム教の生徒が、学校に卒業証明か何かを受け取りに来るシーン。
まだ在校中なのだから、校則で決められたスカーフ禁止を守れ、守らないと学校に入れない、と騒動になる。
過去の歴史を振り返る映画かと思っていたので、このエピソードによって、過去と現在は根本のところでつながっている、大きな違いはないのかもしれない、と意識させてくれる。
もうひとつは、カトリック教会に描かれた宗教画をゲゲン先生が説明するシーン。
天国と地獄が描かれた画であるが、地獄のなかにモハメッドが描かれている、と説明する。
これにより、教室内は騒然となり、殺気立つ。
しかし、先生は、こう続ける。
「この絵が描かれているのは、カトリックの教会です。つまり、彼らにとってイスラム教徒は敵であり、地獄に落とすべきだと考え、敵愾心をあおるプロバガンダなのです」と。
ほほぉ、フランスの教育は進んでいる。
一方的な見方をしないことを教えている。
歴史=過去に起こった出来事=覚える、ではなく、歴史=過去に起こった出来事はなぜ起こったのか=理解する、である。
理解することは難しい。
相手のみならず、自分を(特に自分の非も含めて)受け容れなければならないからである。
この授業のエピソードがあるからこそ、後半のナチスの虐殺に関するテーマが活きてきて、生徒たちが互いに理解し(理解しようとして)歩み寄るところが活きてくる。
コンクールで1位を獲る(獲った)から素晴らしいのではなく、見た目も宗教も習慣も異なる生徒たちが理解しようとして歩み寄るところが素晴らしいのである。