「野村萬斎の面目躍如だが、なんちゃって”本格”時代劇」花戦さ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
野村萬斎の面目躍如だが、なんちゃって”本格”時代劇
野村萬斎の面目躍如。
戦国時代の花僧・池坊専好を野村萬斎が演じ、花の美しさで豊臣秀吉をいさめたという伝説のエピソードである。華道三大流派(池坊・草月流・小原流)のうちの最古の池坊の正当性を大宣伝している。
初の"華道映画"ということもあり、監修として華道家元池坊の大バックアップによる生け花の競演がとてつもなく美しい。
ゆえに実話っぽく感じてしまうが、これは史実を無視した創作要素が多く、時代考証はメチャクチャである。堤幸彦監督×中村勘九郎の「真田十勇士」(2016)くらい弾けていれば、"こんなわけねーだろ"と楽しめるところだが、そうはいかない出来の良さが問題である。
野村萬斎のサービス演技は旺盛で、表情・所作すべてが狂言的にデフォルメされた正統派。なんちゃって時代劇なのに、脇を固める共演者が、市川猿之助、中井貴一、佐々木蔵之介、佐藤浩市とそうそうたるメンバーで、"本格時代劇"と誤解されてしまうわけだ。
ところが序盤でいきなり、織田信長との謁見の場に居並ぶ武将のテロップに、"豊臣秀吉"とでてくる。公式サイトには、"木下藤吉郎/豊臣秀吉"、"千宗易/千利休"の改名を後年のもので統一表示したと注釈はあるのだが、普通は映画本編しか見ないのがあたりまえ。歴史ファンにはがっかりだろう。
"これはフィクションです"とテロップを入れるべきではなかったか。実在の人物を使ってはいるが、"遠山の金さん"、"暴れん坊将軍"、"水戸黄門"なのである。
しかしエンターテインメント作品として観れば、なかなか見応えのある妄想エピソードである。仏道と華道の関係性、華道の心を伝えようとしている本作の姿勢には、"日本の美"に対する再発見がある。また、表千家不審菴、裏千家今日庵、武者小路千家官休庵の協力を得て、茶道と千利休の描き方も本格的だ。同じく時代背景がリンクしている、市川海老蔵主演の「利休にたずねよ」(2013)とセットで観ると、絶対に楽しい。
野村萬斎は、前作「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」(2016)で、人気脚本家・古沢良太による現代劇に挑戦していた。古沢氏いわく、"野村萬斎のアテ書き"のはずだったがイマイチ。結局、「のぼうの城」(2012)をはじめ、着物キャラクターでしか輝けていない。
本作に関してはまったく問題ないのだが、その演技は、アニメ声優や「シン・ゴジラ」でのゴジラのモーションキャプチャーモデルなど幅広い。やはり現代劇での魅力を観てみたい。
本作のちょっとした掘り出し物は、"れん"役を演じた森川葵である。言葉を発しない、捨てられた少女の演技に引き込まれる。
(2017/6/4 /TOHOシネマズ日本橋/ビスタ)