「自分の殻を突き破るための一生懸命な片想い」ドリスの恋愛妄想適齢期 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の殻を突き破るための一生懸命な片想い
中年もすでに通り越したような、そんな独身女性がいる。服はド派手で奇抜なコーディネート。道端に落ちているものを物色し、拾ってくるのが趣味という、一見したら、ちょっとオカシイ人に見えてしまうかもしれないおばさん。演じるのはサリー・フィールド。ユーモアとチャームを役柄に注ぎ込み、オカシイ人に見えないギリギリの綱渡りに成功する。
物語は、そんなおばさんがそれまで面倒を見ていた母親が死んだことで自由な時間を得ることになり、そこから年下(親子以上)の青年に対する片思いと、そして彼女のおかしな収集癖を直そうとする弟夫婦との関係から、ヒロインであるドリスが自己の殻を突き破るまでを描いている。最初はドリスの奇抜な個性に目が行くし、年の離れた若い青年に熱を上げる様子からはともすれば滑稽さや愚かしさ醜さみたいなものが出てきてもおかしくない。そこでもサリー・フィールドは踏ん張る。そして映画自体もまた、そんなドリスというヒロインを決して笑おうというつもりはない。彼女にまつわるコメディは多々あるものの、彼女が恋をしたりものを拾ったり人に嘲笑われる姿を面白がるということはしない節度がある。物語はちゃんと、ドリスが自己を突き破ることに注視してくれている。安心できる。あらゆる要素がドリスの内省につながっている。青年への恋も、老いらくの恋で決して実らない恋で、失敗・失態だらけの恋だけれども、その恋を通じてドリスは母親の介護で犠牲にし続けてきた自己を取り戻し、なんなら青春をもう一度取り戻そうとする。その姿は他人が見れば滑稽かもしれないけれど、ドリス本人は一生懸命で、この映画はそんなドリスの必死さにそっと寄り添う。観客もいつしかドリスの背中を押したい気持ちにさせられる。
原題は「HELLO, MY NAME IS DORIS」という。これはアルコール依存症の集会などでよく見られる挨拶「HELLO, MY NAME IS DORIS」「HI, DORIS」という掛け合いから来ているかもしれないと思う。もちろん深読みだ。しかし、まるでこの映画でドリスは積極的で能動的なカウンセリングを受けるかのように、青年に恋をし、新しいバンドの音楽を聴き、集め続けたガラクタを片付け、きれいな洋服を着る。そして妄想に漬かったような恋から一歩前へと踏み出していく。なんだかおかしなおばさんのおかしな物語だけれど、ちょっぴり元気と勇気をもらうような、そんな映画だった。老いらくの恋にフェイスブックやら何やらと新しいトピックが絡んでくるのも面白い(恋のアドバイザーが13歳の女子学生なんだから)。サリー・フィールドの愛嬌も手伝って、なんだか可愛い映画になった。