「下手くそでも胸を打つ歌声」マダム・フローレンス! 夢見るふたり うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
下手くそでも胸を打つ歌声
人の心を打つ歌声に、ヘタもうまいもないのだろう。金持ちの道楽とはいえ、彼女が歌を愛する気持ちは純粋で、それに捧げた情熱は誰も否定できない。
「ヘタクソ!やめちまえ」なんて、ヤジを飛ばすのは誰にでも出来るけど、カーネギーホールのステージに立つことが許される歌手なんてひと握りしかいないだろう。まして、愛され、賞賛される歌声となると、ほんの数人だけ。
状況は違うけど、今やどこにでもアイドルがいる時代で、ひどい歌だったり踊りを、いやでも目にする機会が増えた。価値の相対化で、人の趣味をどうのこうの言えない状況になり、本当にいいものと、そうでないものがごちゃまぜに評価される。
そんなことを考えさせられる映画だった。
決して面白くはないけど、いろんなことを考えるきっかけになった。
ところで、彼女の歌を腹を抱えて笑うのが、正しい感覚なのだろうか?好事家が、「こんなひどい歌があるんだよ。笑っちゃうだろう」なんてスタンスで、レコードを取り出してくる構図が、どうにも好きじゃない。時間のムダである。
ジャンルは違うが、志ん生の落語。好きな人にはたまらない魅力らしいが、私にはただのおじいちゃんの独り言にしか見えない。当時、志ん生は人気者で、たくさんのファンに愛されたという。今あらためて彼の技術や、芸論に触れる機会はめったにないが、笑って聞くのが正しい楽しみ方なのだそうで、一つも面白くない。落語ファンなので好きな噺家はいるし、生の高座にも通っている。結局好きな人が楽しければそれでいいと思う。
彼女の歌が下手なのが面白くてしょうがないのは、ファンであるのと変わらない。本当に嫌いな人は、目もくれないはず。
そういう意味で、彼女の歌声は、時代を超えて愛されているから、そこらのコロラトゥーラとは一線を画すものだろう。