92歳のパリジェンヌのレビュー・感想・評価
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私たちの社会と、一人ひとりの生き方を問いかける物語り
『ヨーロッパには寝たきり老人はいない』という本がある。
あちらでは、ヘルパー制度や老人ホームなどを使い、子供を頼らず一人で生活を積極的に楽しもうと努力する。モノが食べられなくなったら特別な治療はせず自然と亡くなるのを選ぶ。そういう生き方をすることが「彼らの誇り」であるという。
日本の老人ホームでは、本人についての措置・判断でさえ本人抜きで子供と担当者で決めるのがふつう。若いときから「まるくおさまるのがなにより大事」と思って自分の考えを言わないで生きているうちに、いつしか「老いたら子に従え」になり、無感動のつらい日々が続いたあと寝たきりになる。認知症にならなければ怖くて苦しくて生きていけないのではないだろうか。
この映画では、老いと闘いながらも人間らしく自立して生きられる時まで生きようと、パリのアパートで独り暮らしをするマドレーヌを、家族は遠巻きに支援する。黒人ヘルパーも対等の関係(「契約関係を結んだ友人」という感じ)でのマドレーヌの相談相手であり協力者である。
マドレーヌが尊厳死の意思を家族に宣言したあと、家族は驚き、とまどい、怒り、嘆きながら、しかし最後はマドレーヌ(母)の意思を理解し尊重してその日にむけて協力する。
特にマドレーヌへの娘の情愛(生きていてほしい!)という願いと母の意思を尊重してあげたいとの間を心が揺れ続け、最期の日を迎えるまでのプロセスは、こちらもハラハラしつらくなる。
しかし、すべてが終わった後、家族にも我々にも静かなさわやかささえ感じさせる。
1年でも、1日でも長く生きさえすれば幸せであるとは限らない。自分の最期までを自分で決めることの大切さについて、私たち日本の社会と、一人ひとりの生き方を問いかける物語りである。
家族みんなで観るのにちょうど良い
「最強のふたり」を思い出しました。共にフランス映画です。
本作は女性編ですが、2つの映画とも移民のヘルパーにどれだけか、ユニークに心身共に、支えられたかというストーリー。
自立した女はフランス映画の鑑。
ヘルパーのヴィクトリアが、信頼できてごっつ魅力的!とかく煮詰まってしまう家族の中にいつも彼女が新風を吹き込んでくれる。
まさに「救いは外からくる」ですね。
「終活」のイメージトレーニングに、この映画はとてもいい教材じゃないかな?
家族のリアルな慌てぶりは、我がこととして勉強=予行演習になるので。
母親の“決意”にうろたえる息子と、娘と、孫とお婿さんと。彼ら家族全員のショックと成長が、その年代別に、そしてその立場ごとに、丁寧に描かれていてとてもいい。
・・・・・・・・・・・・
みんないつかは、自分も家族も100%死にますよね。
そうだと知っているのに、看取りも、自身の死も、みんな嘘のように覚悟なし。
こんなに大きな課題なのに、僕ら無責任だったなぁと改めて教えられました。
ほら、
来週の計画を手帳に書き込むように、ちゃんとスケジュールを立てなくちゃね。
(あと、部屋のお掃除とかも、笑)。
むかし特別養護老人ホームに勤めていた僕なのですが、失禁の始まったお年寄りへのフォローは、とても大事な役割でした。
「気にしない気にしない、大丈夫大丈夫、何度でも何度でも、笑顔と、ハグ、
・・安心して僕を呼んでね」。
そんなホームでの生活を久しぶりに思い出しました。
母親の“決意”に苦しむディアーヌを、その気持ちを察して訪ねてきてくれる看護助手の青年。
一緒に走るスタジアム。
寄り添うって、これだよね。素晴らしいシーンです。
そしてもうひとつ、
母子の珠玉の会話です
私が手を離さないかと怖がっていた
今でも怖いわ
落ちそう
大丈夫よ
離さないでね
離さないわ
怖い
怖くないわ
お母さんがむかし娘に約束した言葉を、今は娘が母に語ります。
本当に宝石のような会話です。
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安楽死やら、もうすぐ訪れる僕の両親の終わりの日々についても、新しい情報や心準備のために、いろいろと知識の“上書き”もしてもらえたとても良い作品でした。
家族みんなで、リビングで観るとか◎だと思います。
タイトルなし
生きる気力が無くなり自分で出来る事が少なくなっていく高齢者が死を選...
そんなに遠くない、自分。
自分の祖父母のことを想った
自分もこうありたいと
極めて実存的なテーマ
自らの尊厳死を望む老婆の物語だ。
健康寿命という言葉がある。何をもって健康とするのか議論の分かれるところではあるが、簡単に割り切る考え方がある。それは食事とトイレと入浴の三つをひとりでできるかである。生活の基本動作だ。
自動車の運転が下手になったら、運転するのをやめればいい。運転をやめたからといって、すぐに介護が必要になる訳ではない。ところが基本動作がどれかひとつでもできなくなったら、誰かのお世話にならないといけなくなる。それは長いこと自立して生きてきた人間にとって、堪え難い屈辱だ。人間としての尊厳の危機である。
歳を取ると身体が思っているように動かなくなるだけではなく、制御も利かなくなる。寝ているときの失禁つまりおねしょは、老いを迎える人間にはショッキングな出来事である。筋力が弱って立ち上がれなくなったときの絶望は計り知れない。
人間は悲しみや苦しみ、苦痛や不安や恐怖で自殺するのではない。明日という日に何の希望も期待も抱けなくなったら、躊躇うことなく自殺するのだ。今日が酷い一日だったとしても、明日はいい日になると思えば自殺することはない。明日は今日よりももっと酷い一日になるだろうとしか思えなければ、自殺以外に道はない。いじめ自殺の心理的な構造も同じである。
現実世界にはおいしいシャンパンや贅沢な食べ物や人との楽しいかかわりもあるが、それらを全部底に沈めてしまう大きな絶望がある。年老いた主人公はそんな絶望をひとりで受けとめ、ひとりで決着をつける決意をするのだ。
そしてそんな状況でも母としての優しさを失うことはない。息子の、死にたいのは老いるのが怖いんだろう、鬱だから薬を飲めば治るという愚かな言葉にも何も反論せず、ただ悲しみの涙を流すのだ。
フランス映画らしく極めて実存的なテーマを真正面から描いている。宗教的な価値観の介在する余地はない。自殺が禁忌とされているのは宗教的な価値観ではなく、大勢が自殺してしまうと共同体の存続が危うくなるからだ。人を殺してはいけないとされているのと同じ理由である。
だから主人公は共同体の禁忌や法律と折り合いをつける。家族が共同体による禁忌の束縛から離れ、尊厳死を選択する実存としての自分を理解してくれるように努める。見事な生き方、立派な生き方だ。
こういう映画がきちんと評価されるところに、フランスの精神的な健全性がある。フランス語の原題は、そのまま翻訳すると「最後の授業」となり、別の映画のタイトルになってしまうので、今回の邦題はいいタイトルだと思う。
おばあちゃん
11/1 92歳のパリジェンヌ銀座
女の人は強い。
男の人はいざとなると弱い。
うちの家族だけかと思っていたけど、
共感する人は多いのかな?
おじいちゃんが笑顔になるように、
実家帰って孝行したいなって思った。
尊厳死ー
死にたいのは体が弱ったのではなく、
自分の死を自分で決めたい
ーと言う考え方があることを知った。
夜に対する考え方ー
歌うためや、誰かと愛を育むため
寝るためにあるんじゃない。
ーに共感した。
女の人は強い。
自分の意思を貫き通す。
男の人はいざというとき弱い。
自分勝手で幼い。
怒鳴り逃げ後で後悔をする。
父を見ているようだった。
死なないで、とは言えない。
96歳のおじいちゃんを想いながら
この作品を観ていました。
おじいさんが笑顔になるように、
安心して死ねるように、
自分も変えて行こう。
人生の最期を自分で
等身大の物語
フランスの元首相リオネル・ジョスパンの母の実話を原案にした映画。原案となった本を書いたのは、リオネルの妹であり作家のノエル・シャトレ。フランス映画祭2016で最高賞の観客賞を受賞。
フランスの元首相を描くのが目的ではないので、現実の世界ではその位置にあたると思われるピエールの職業は政治家ではありません。でも、この行動はおそらくこの作品で描かれたような、「母の主張を受け入れることは出来ない」と言う事だったんじゃないでしょうかね。そんな気がします。
ちょっとピエールの職業に脱線しますが、何やら中国と取引のある職業の模様。ハリウッド映画のみならず、フランス映画でも中国は避けて通ることは出来ないものなんですね。
映画の話に戻ります。こう言う作品の場合、みんなハッピーになって幸せになるというなんかキレイな物語になりがちですが、この作品はそうではありません。等身大の人々、現実の出来事として描かれています。そう言う意味で、見ている側も、リアルな出来事として捉える事がしやすかったと思います。逆にそれが故に、生々しいと言う気にもなりましたが。
高齢化が止まらないいま現在の日本にも当てはまるリアルな物語でした。
男性の感想を聞いてみたい
見た直後は、もしかすると、男女で見方の差が出る映画かも?と思いました。
「私は女だから、“母であると同時に、同じ女性同士でもある母娘関係”にすごく共感できたんだ。」と感じたのですが…
実はそうではなくて、登場人物をそれぞれの立場から丁寧に描いている映画だから、そんな感覚に誘われたのだ!と気づきました。
してやられたり。
尊厳死がテーマの実話って事は、ほぼほぼ着地点も決まっているわけですし、描かれるのは本人よりも受け止める家族側の葛藤ですよね?
言ってしまえば、そんな辛くて不毛なやりとりで二時間引っ張るわけでしょ?
どこを広げて、どんな切り口で?
と、この試写会をとても楽しみにしていたのですが、
ああ、あのお兄ちゃんなら、そうだよね。
ああ、こんなお婆ちゃんと孫の関係あるよね。
ああ、血が繋がっていても、ウマが合う合わないはあるからなぁ。
自然に“あるある”と思わせるリアリティーの積み重ねが素晴らしいです。
まるで前からその人達と知り合いだったかのような感覚で、それぞれの行動が腑に落ちます。
そして、それぞれの選択には、決して良いも悪いも無い。
バスルームのシーンが何度か出てきますが、どれも印象的で素晴らしいシーンでした。
風呂に入ることや排泄には、一番人間の尊厳が表れるような気がしました。
ともあれ、ぜひ男性の感想も聞いてみたいところです。(笑)
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