「共感を呼ぶ凡庸さと、感動を呼ぶ演技と演出」シング・ストリート 未来へのうた MMさんの映画レビュー(感想・評価)
共感を呼ぶ凡庸さと、感動を呼ぶ演技と演出
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半自伝的映画だからこそ、ありきたりでシンプルな構成にもなるのだろう。貧困層のイケてない**野郎が、一目惚れした年上の美人に気に入られようとする過程に音楽があり、音楽を通じて友と出会い、音楽を通じて自分を築き上げていく。
こんな凡庸な物語をを特別たらしめたのが役者と演出なのだった。主人公達のMV撮影を含むギグには、プロムの妄想(孤独)と、校長への反逆の歌(結束)という2つのターニングポイントが設定されている。役者はこの2つのターニングポイントを見事に演じ分け、演出はここを基点に観る者の共感を呼ぶように物語を収束させていく。
印象的なのは終盤、主人公を置き去りに(予告も匂わせもしているからフェア)して、彼氏とロンドンに行くも即座に挫折して帰ってきた想い人との会話のシーン。
他人任せに都会へ出て打ちひしがれ、自暴自棄な台詞を並べ立てる想い人に主人公は言う。
「これからリハがあるんだ」
既に自らの意志で成功へと向かい始めていた、年下の少年が憧れた年上の想い人に追い付き、追い越し、「キミはどうする?」と問いかけた瞬間だ。いつしか彼は彼女を励ます存在になったのだ。
ラストは、想い人以上に思慕し、自分の拠り所としていた兄からの旅立ち。
己が切り開いた道を通ってきた弟が、己を越えていこうとする夢破れた兄の、弟を見送る雄叫びは、この映画のもうひとつのハイライトだ。
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