「かなしみとよろこびのハーモニー。」シング・ストリート 未来へのうた だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
かなしみとよろこびのハーモニー。
80年代のアイルランドを舞台にした、青春音楽映画です。切なくて悲しくて幸せな物語でした。まさにハッピーサッド。
「ONCEダブリンの街角で」は、まだ見られていないものの、「はじまりのうた」が大好きだったので、楽しみにしていました。
なんですが、本作公開前にジョンカーニー監督が「はじまりのうた」に主演したキーラナイトレイをディスったという記事を読んで、ちょっとしょんぼりしたりもしました(後に監督は発言を訂正、ならゆうなって)。役者の仕事ぶりは映画からは分かりませんがね、そんなのは、言うんだったら本人にのみのすべきであって、世界に発信することでは絶対ないよねと、残念に思いました。
ま、映画の話をしましょう。
アイルランドには、ちょっとだけシンパシーがあります。全然ゆかりのない遠い遠い世界ですが、悲しい歴史がこれでもかと詰まった所なので、悲しみに対峙する人の姿を見たくて、幾つかの映画や物語で意識的に触れてきました。
それでも所詮遠い遠い世界なので、知らないことばかりなわけです。
今回それを実感したのは、1980年代にあってなお、離婚が法的に認められていなかったことです。
マジか、と思いました。今(2016年)でも4年くらいは別居しないとダメだとか。前にイタリアの離婚事情を知ったとき(こちらは三年別居しないと離婚できない)も衝撃でした。それって幸せになろうとする人を苦しめるだけではないのかい?なんて思いました。カトリックに限らず宗教上の決まりごとが足かせになっていいのだろうか。モヤモヤします。
また話はそれてしまいましたが、宗教は何のためにあるのかということも、引き続き考えていきたいことのひとつです。
80年代のイギリス音楽に、81年日本生まれの私は、あまりぴんと来ません。デュランデュランとボブディランが最近までごっちゃになってました。なので、懐かしいあの頃!という盛り上がりは皆無です。かろうじてデヴィットボウイが分かったくらいです。でも、コナーとエイモン(この子が一番かっこいいと思った、あのメガネやめたら)の作るオリジナル曲が素敵と思えたので、音楽部分もおいていかれず楽しみました。あんなレベルの高いオリジナル曲が作れる10代ってのには、うそ臭さも感じなくもないですが。
特に兄の悲しみが沁みました。私も長子なので、弟妹を愛しく思う反面、自分が必死で切り開いた道を、あとからふらふらついてきただけの弟にあんなふうに言われたら(たいした内容でもないのに)、兄のようにかっとなると思います。両親が円満であれば、兄の子ども時代はそんなに苦しくなかったでしょう。兄の言葉を借りれば、「カトリック教徒のくせに、セックスしたいだけで愛し合っていないのに結婚した」両親の間で、家族を維持させようと苦心した兄の苦労はいかばかりか。語りつくせない共感があります。別に兄は常々その事を根に持っていたわけじゃないと思います。子どもの頃から頑張ってきたものが、限界に達して自暴自棄になっている今、その事を単純な堕落のように冗談でも弟に言われた事が悲しかったのだと思います。やだわ、ほんと兄悲しいね。分かるよ。
ラストに兄は、コナーとラフィーナを海へと送り届けて、やったあ!みたいに、喜びます。絶対喜んでいると思います。兄は、弟に言われなくても、自分を責めているので、今の自分をしっかり責めているので、ふがいない自分を追い越して、未来に向かってゆく弟のまぶしさに希望を見たのだと思います。
コナーの思春期の戦いも、家族がみんな一緒で幸せでいたいという願いも、切なく響きました。
50年代のアメリカのプロム風の空想ミュージカルシーンが特に、ノリノリのハッピーさと、決して手に入らない家族の幸せに悲しくなりました。
小舟でイギリスにわたるなんてどう考えても無謀ですが、それでも向こう見ずに飛び出す若さのきらめきを眩しく見つめました。