「ある家族の歪んだ秘密と青春グラヴィティ」母の残像 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ある家族の歪んだ秘密と青春グラヴィティ
戦場写真家の母親が亡くなって3年が経ち、長男は子どもを持つ若き父親になり、まだ子供だった次男も多感なティーンエイジャーになった。しかし、母の死の真相や、また母の不在というものが、3年が経った今でも家族の中で戦場よりも大きく静かな爆発を見せようとしている。原題は“Louder Than Bombs”。
ただこの映画、分類するならば、「普通の人々」や「アメリカン・ビューティー」のような、歯車の狂った家族の物語ではないだろうか?母の秘密だけでなく、父親にも長男にも次男にもそれぞれ秘密のようなものがあり、ヤスリのように擦れてざらざらと痛んでいく様子を「家族」という視点で見つめている感じ。強ち遠くない世界観のような。
ただ、前半で思わせぶりに物語の中心にいた長男ジェシー・アイゼンバーグが中盤からすっかり影が薄くなり、その代り次男の青春グラヴィティのような物語が一気に顔を出してくるアンバランスさ。しかもその次男のストーリーの色付きの良さが父親のストーリーも長男のストーリーも、さらには母親の秘密をも超えた存在感を出すので、それならいっそ、次男を主人公にしたカミング・オブ・エイジの物語で良かったんじゃないのか?と思えてくるほど。
家族の歪みと、それぞれの心の中で交錯する亡き母への思いと、亡くなってからようやく知る個人のこと、という物語としては、全体的に少し弱いような気がした。母親の存在って確かに大きいけれど、母親の不在っていうのも、確かに大きな不在であり、不在という存在感があるというのはよく分かるけれども。
不在を演じても存在感を出せるイザベル・ユペールはさすが!という感じで、またユペールとアイゼンバーグが鏡越しに並ぶシーンで、国籍も違う二人がちゃんと親子に見えたのも良かった。しかし一番の魅力を発揮していたのは次男を演じたデヴィン・ドルイドが抜群に良かった。映画を完全に自分のものにしていた。