「編み物…」彼らが本気で編むときは、 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
編み物…
ラストの贈り物で涙がぽろぽろ。あれがあればどんな困難だってやり過ごせると思った。
母親がたくさん出てくる。
冒頭の、コンビニのおにぎり。
そして、食卓一杯に並べられた食事。
その流れに心が満たされていく。
さすが『かもめ食堂』の監督、と気分よく見始めたが、
途中から、すごく苦しくなった。
リンコの、良妻・良母ぶり。
それに比して描かれる、トモの母のダメっぷり。
生田氏の”女”らしく見せようという演技・演出?
ぶりっこのような仕草。
微妙にあっていない乙女チックなフリフリのファッション(今時、もっとリンコにあったスタイルの女性服があるはずなのに)。
”優しさ”が強調される性格。
”女”なら、”母親”ならこうあるべきが押し付けられてくる。
ジェンダーが押し付けられてくる。
何だそれ?
”男らしく””女らしく””夫婦とは異性であるべき”とか、たくさんの”こうあるべき”に苦しめられたであろう人が出てくるのに、意外に散りばめられている監督のメッセージ:”こうあるべき”。
それでも、リンコのぶりっ子なふるまいの中に、意外と男っぽい言い回しとかが出てきて、ほっとする。女にだってガサツな面やハンサムな面があったっていいじゃないか。
特に、後半の一人で悩んでいる場面。女である面と男である面が交差して、”人間”としての面が出ていて美しい。やっと素のリンコに触れられた気がした。
そして編み物。
女の恨みの象徴であり、
母の思いやりの象徴であり、
煩悩の象徴。
煩悩の象徴は昇華される。その場面のリンコもとてもきれい。
だからこそ、この後、リンコとマキオの家が編み物で埋め尽くされないことを願う。
と、映画全体ではしっくりこないが、
女とか男とかと関係なく、リンコの、トモとの心の距離感の詰め方が好き。痛みに寄り添える高貴なる魂に癒される。
『スイミー』小学校低学年の教科書にも載っている話。学芸会でも演じさせられるような教材。
こんな世界がすればいい。お互いの特徴を活かしあいながら生きていける世界が。
母であろうと、叔母であろうと、児相の職員であろうと、友であろうと、
私の生き方を尊重して、見守ってくれている存在があれば、生きていけるんだ。
トモの選択がそう言っている気がした。
トモを演じた子役がいい。類型が多くて平板に流れるこの映画に、トモの自然な演技が命を吹き込んだ。
㊟
「性」の話を一緒にできない親子は、一緒に見ると慌てることになる。性的な場面はないが、びっくりするような性のネタ・言葉がたくさん飛び交っているから。この映画をきっかけに、話ができるようになるといいけれど。
(自治体のトーク付き上映会にて鑑賞)