「家族を編む」彼らが本気で編むときは、 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族を編む
荻上直子監督の作品と言えば、『かもめ食堂』『めがね』などのようにちょっと風変わりで、ゆったりまったり時が流れていく。
本作も風変わりっちゃあ風変わりだが、ストレートに心癒される家族ムービー。
育児放棄され、母親は男を追って家を出、帰ってこない。
小学5年生の少女・トモは、叔父・マキオの家で暮らす事になるが、マキオには一緒に暮らしてる恋人が。
その人は何と、トランスジェンダーのリンコだった…!
生田クン、どうした!? まさかのトランスジェンダー役!
最初こそは違和感ありまくりだが、いつの間にか自然に“生田斗真”じゃなく“リンコさん”にしか見えなくなってくる。
元々美形だし、化粧や衣装もあるだろうが、やはり生田斗真の演技力。硬派な岡田准一ならこうはいかない。
繊細で、温かくて、柔らかくて、生田斗真のキャリアに於いてもとりわけ印象に残る好演と作品。
マキオ役の桐谷健太も、いつものオラオラ系の熱血演技とは違って、抑えた穏やかな演技。このマキオくんが、ちょっとリンコさんの尻に敷かれてる感じが面白い。
実質主役は、トモ。演じる柿原りんかが、小生意気でマセてる所もあって達者!
ミムラと小池栄子がダメ母で憎まれ役を引き受け、そしてリンコの母・田中美佐子が、結構豪快な所もあるが、誰よりも我が子を理解し愛情を注ぎ、出番は僅かだが、好演。
勿論最初は戸惑うトモ。
リンコは“体の工事”も終え、胸もふっくら。
トモのクラスには、同性愛の男子が居て、皆から“キモイ”と見られている。近所の仲良しではありながら、トモも。
これを布石にし、トモが徐々にリンコを受け入れていく様が丁寧に描かれていく。
母親と暮らしてた時はコンビニのおにぎりばかり。リンコの手作り料理、お弁当が美味しい。
髪を解かしてくれる。
イライラ怒りや我慢がどうしても抑えきれない時の解消法。
編み物を教えてくれる。
さながら編み物のように、温かい擬似家族のような関係を編んでいく。
全員が寛容じゃないのが、世間。
噂はあっという間に広がる。
クラスではのけ者。
本来なら偏見を咎めなくてはいけない大人たちが、一番の偏見の塊。
ああいう人と関わっちゃダメ。普通じゃない。
普通って何?
偏見の塊のコイツらこそ、普通じゃない。
日本でもパートナーシップが導入された事は記憶に新しいが、ほんのごく一部。
まだまだマイノリティー。生き辛さ。
好きな人と一緒に暮らせるありふれた生き方も出来ないのか。
ある時、リンコとの出会いをトモに聞かれ、そのマキオの答えにジ~ンとした。
「きれいな心に惹かれた」
結局人が人の何処を好きになるかは、容姿云々どうでもいい、心。
皆が皆、そんな純粋な心を持てば…
最後は切ない。
いや、これはこれで妥当だろう。ダメ母でも、母。トモの母親が今度こそ、“母”になる事を信じて…。
ありふれた幸せや家族を望んだリンコ。
甘くはない現実を突く。
しかし、リンコさんは短い間ながらも、優しく温かく編むように与えてくれた。
心に“ふっくら”と。
日本ではLGBTを題材にした映画は少ないが、邦画十八番の家族モノと絡め、良作に。
レンタルで見るのが遅れ遅れになってしまったが、見て良かった!と素直に思える好編。