「視点を変えてみると、」彼らが本気で編むときは、 cometさんの映画レビュー(感想・評価)
視点を変えてみると、
これまでの荻上監督作品から雰囲気がガラリと変わるけれど、随所に監督らしさが散りばめられている作品だと思いました。毛糸のアレとかアレとか、あそこまで行くと面白いのか狂ってるのかよく分からないシュールな感じ。そこは荻上監督のチャーミングな所だと思います。
トランスジェンダー(T)を中心に置く事で母と子の関係性を見つめ直すという仕組みもとても良く機能していたように感じます。生田さんの見かけもあり、違和感から始まる事でより0から関係を構築しているような印象が持てました。
この作品、観る人の立場や視点によって感じる事が違うのではないでしょうか。マジョリティにとっては穏やかで暖かな作品に見えるかもしれないけれど、マイノリティにとってはより絶望を感じる作品ではないでしょうか。
社会的に女性が求められるものを手に入れようとするリンコは、あまりにも型にはまったザ・性同一性障害者像。トラブルも型にはまったような内容。しかし、あれだけ分かりやすくしないと、今の観客は付いてこれない、との判断なのかもしれません。荻上監督の過去作「トイレット」では、もっと複雑な性を持つキャラクタを登場させており、その事からも、今作はあえて観客のレベルに合わせた、確信犯的な設定なのではないかと思いました。そしてそのレベルの低さについては、おそらく多くのTが頭を抱えているはずです。
あまりリンコに焦点を置いた場面は少ないし、事件はリンコの居ない所で起こっていたりします。しかしリンコの苦悩の多くは、自分の視界に入らない所での偏見・差別行為であり、場の雰囲気でそれを察知してしまう事にあります。直接的にやられる場面もあります。いくつかの直接的な経験と場の雰囲気、それらによる今後への不安・絶望から、人によっては自ら命を絶つ十分な理由になり得ます。大してリンコは酷い目に遭っていない、という評価(印象)に対して根深いものを感じます。リンコは相当酷い目に遭っています。
本作は実はLGBTものではないと言いつつ、リアルな絶望感があり、Tについて掘り下げていないぶん普遍的。Tに限らずLGBやその他マイノリティ側の人間は作品本編とそれへのリアクションをもって、映像や物語以上に絶望を感じる事もあるかと想像します。
こんなように観た後から色々考えたり想像したりしたくなる作品でした。