劇場公開日 2017年2月25日

「尋常でない包容力を持ったひとのハナシ」彼らが本気で編むときは、 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.0尋常でない包容力を持ったひとのハナシ

2017年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

小学5年生のトモちゃん(柿原りんか)は、母親とふたり暮らし。
しかし、母親は時折、トモちゃんを残して男の許へ走ってしまうことがある。
ある日、またしても、トモちゃんを残して、母親は出奔してしまった。
ひとりになったトモちゃんは、母親の弟マキオ(桐谷健太)が勤める書店を訪れる。
マキオに連れられていった彼の住まいで、トモちゃんは、性転換者のリンコ(生田斗真)と出逢う・・・

というところから始まる物語で、サイドストーリーとして、同性愛に悩む同級生の少年カイくん(込江海翔)の物語が絡んでいく。

異色の題材だが、奇妙なところなどまるでない、至極フツーの物語として、荻上監督はこれまで培った淡々とした演出で撮っていく。
これがとても好ましい。

ひとそれぞれに悩みはあり、そんな悩みがあることはフツーだし、そんな悩みを抱えているひとを優しく包んであげたい。
監督の、そんなやさしさが溢れている。
尋常でないかもしれないほどの、やさしさである。

しかし、そんなやさしさには、当然のことながら、簡単に到達できない。
ときには、怒り、悔しい思いもする。
そんなときは、そんな思いをぐっと飲みこんで、毛糸に一目一目ずつ託して編んでいく。
タイトルの『彼らが本気で編むときは、』は、そんな意味だ。

こんなことを劇中のリンコさんが言うわけだが、古いことで恐縮するが、森崎東監督の昔の映画で、「女は、悲しいとき、ぐっとこらえて、ごはんを食べるんだよ」という台詞を思い出したりもした。

この映画、ただやさしいだけでなく、終盤、凛とした気概もみせる。

出奔したトモちゃんの母親が戻ってきて、トモちゃんを連れ戻そうとする件、母親は女性性に基づく母性を振りかざすが、「女性や母性を振りかざす前に、親として弱いものを守ろうとしないの」と問うリンコは凛としている。
たしかし、シングルマザーには生きづらい世の中だ、だからといって、自己都合で子どもを打っ棄っておいていいはずはない。
リンコは戸籍上の性を変更した後は、マキオと結婚して、トモちゃんを引き取る覚悟があったからだ。

こう考えると、リンコもそうだが、マキオの包容力も尋常でない。

尋常でない包容力を持ったふたりのハナシなのだ。

リンコ、マキオ、トモちゃんの三人が毛糸で何を編んでいるかは、ここでは明かさない。
最後に、リンコがトモちゃんに渡す品物も、同じく明かさない。

それらの品物は性を象徴しているが、しかし、性から解放されていくことを考えると、かなり興味深く、かつユーモアに溢れている。

りゃんひさ