「他人の個性を受け入れるということ」彼らが本気で編むときは、 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
他人の個性を受け入れるということ
ようやくLGBTへの理解が進んできたとはいえ、やはり世間ではまだまだ異端扱い。『チョコレートドーナッツ』を思い出した。
リンコの心の清らかさを知ればその偏見はなくなるのだろうけど、そもそも、知る機会さえそうはないし、機会があっても毛嫌いしてしまうのが大方の人間の行動だろう。学校の先生しかり、少年の母親(小池)しかり。目の前にそれで苦しんでいる人間がいるのに、その苦しみの本質を知ろうとせずに世の常識(実は偏見)を押し付けている。残念ながら、こういう人種に何を言ってもただ何倍にもなって反撃されるのが常で、リンコはそれを学習しているから「編み物」という自己防衛策をみつけたのだ。
しかし、なんと温かい涙を誘う映画であろうか。辛いのだけども嬉しい感情にもなり、楽しそうなのだけども切なくて泣けてくる。だいたい、女の子が「ちんこ」を連発して言ってるのに、気持ちが温かくなるなんてね。
それに、映画のなかに織り込んでくるエピソードも深い。一例を挙げれば、トモとおばあちゃん(りりィ)が、それぞれ何気なく口ずさむ歌が同じ歌だった。つまりそこに、おばあちゃんから娘(ミムラ)、またトモへと、母から子への愛情の連鎖を感じるのだ。心の奥に愛情が根付いているからこそ、最後にトモは彼女を選ぶのだ。
トモ役の子役を筆頭に、役者がみな、人物の個性を引き出しているし、映画自体も余計なことをしない。結論を決めないことばかりで終わってしまうが、それがまた彼らの頑張りの続きを応援しているようにも思えるのが不思議だ。
是非ともこういう映画こそ、中学校あたりの学校行事で見せてやってほしい。そのとき、バカにする子供たちがいたっていい。これをきっかけに、人の痛みに気づく子が何人かでもいれば、いじめだって減るのだろう。