「実写よりアニメの方が時代を反映している?」劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
実写よりアニメの方が時代を反映している?
先に断っておくとテレビ版は全く観ていない。
プロットに関してずば抜けて感心したわけではないが、こんな作品が流行っているのかといささか驚いた。
冒頭にこの作品世界の説明が入る。
時は西暦21世紀末の2090年代、優れた魔法使いをどれだけ持つかが一国の軍事力を象徴し、それが世界の軍事バランスを左右し、核兵器の完全なる代替として魔法使いが存在しているという。
話が進むにつれて判明するのは日本はすでに国防軍を保持していること。そして、あまつさえ主人公たちが劇中北米軍の「スターズ」なる魔法使い特殊部隊と交戦する。
核兵器の代替兵力を各国が保有しているなら互いに牽制しあって膠着状態におちいり結局のところ戦争が起きないのが本来であるツッコミはさておき、現在の日本とはかけ離れて普通に軍事体制が敷かれていることに驚いた。
おそらく憲法九条のしばりはない。
原作はライトノベルらしいが、アニメーション化されてこの作品が人気を博し新たに完全新作として本作ができあがっていることにさらに驚く。
男女を問わず若い世代で安倍政権の支持率が一番高いのも、この作品が一定数に支持されていることを考えればうなずける。
逆に考えればこういうアニメに普段から触れている若い世代だからこそ安倍政権の支持率が高いのか?それとも単に失業率が改善されているから高いだけなのか?
いずれにしろ一部ではなく多くの人々の眉間に皺を寄せさせるには十分な内容だが、映画館には若い人しかいなかった。
筆者は中年であるが、上映時間帯も夕方であったせいか中年ですら見かけなかったように思う。
高齢者と若者の間に立つ中年として筆者が両者を比較すると何を受け入れ何を受け入れないかに隔絶したものを感じる。
昔からアニメの世界ではガンダムをはじめとして戦争ものが腐るほど描かれてきたが、筆者が見知っているのは、世界観はあくまでもぼかされていたり敵が異星人であったり隠喩として日本とどこかの国が戦っているように取れなくもない程度の作品である。
これほど露骨に各国が国益で衝突する世界を描かれているのは知らない。
劇中過去(おそらくテレビ版本編)に主人公たちが大亜連合の侵略を退けているらしい会話がちらっと出てくるが、もうだいたいどこが敵なのか想像がつく。
読んでいないので詳しくは知らないがマンガの『テラフォーマーズ』も現在の日本の安保体制を踏まえて作品が創られていると聞く。
先日観た『トランスフォーマー 最後の騎士王』においてオスプレイが終盤で大活躍していたが、この作品にも当たり前のように登場する。
同じテレビという媒体がからんでいるのに、テレビのニュースと比較して全く別の世界がここに存在している。
おそらく今日本のエンタメの世界においては優秀な人材の多くは最先端であるアニメやゲーム業界に集まっているのだろうが、まだまだ旧態依然とした実写邦画界とはやはり大きなへだたりを感じる。
この作品の好悪は別にしてこの作品が売れるということは、それだけ緊迫した社会情勢を若者が無意識に感じ取っている証拠なのかもしれない。
海軍所属の調整体なる強化人間かクローン人間のようなキャラクターが登場するが、そのシリーズ名が「わたつみ」(=海神)である。
江戸時代の下級娼婦の蔑称である「綿摘」の意味も込められているのだとか…二重の細かい設定…いやはや恐れ入る。
それから三点、外国人からすると日本のアニメキャラクターは日本人には見えず白人に見えるらしいが、筆者はこの作品における北米人と日本人の外見上の区別が全くできなかった。
また冒頭の水着カットと中盤の入浴シーンはサービスカットなのだろうが、全く必然性を感じなかったしそもそもエロさを感じない。
主人公の司馬兄妹の極度のブラコン描写にも正直戸惑う。悪しからず。
ライトノベルの原作者であり本作の脚本を担当した佐島勤氏は年齢などを非公開にしているらしいが、筆者と同じ中年なのかそれとももっと若い世代なのかとても興味をそそられた。
そして最後の最後、エンドロールの終わりで監督が女性であったことに驚かされたことも付記しておく。