「イーストウッド作品と何が違うんだろう」バーニング・オーシャン うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
イーストウッド作品と何が違うんだろう
実際に起きた事故をベースに、決死の脱出劇を映画化したピーター・バーグ監督のアクション大作。
ということになるのだろう。この映画のイントロデュースは。
かたや、「ハドソン川の奇跡」を始めとする、実話ベースのクリント・イーストウッド作品。スタート地点が同じで、テイストも出来上がりも全く別物の(別次元の)映画になってしまうものだな、と。
例えば、イーストウッド映画には英雄はいない。サレンバーグ機長の決断力と実行力を英雄視する連中が登場人物として出てくるが、本人にはその自覚がなく、自分の決断が正しかったのか確信が持てずに苦悩する姿を静かに映し出す。
本作では、主人公マイクの行動がまるでスーパーヒーローのそれのように鮮やかに描き出され、危機を乗り越えていく姿に観客は爽快感を覚えることだろう。
実際、劇場で見る事故発生の瞬間の衝撃は、ホームビデオや、タブレットで再生する通勤電車の中では絶対に得られない迫力の映像で、これだけを見るためにチケット代を払っても惜しくないほどではある。
本当に、人が亡くなったんだな…と思い至る。
しかし、私は途中で眠気に襲われた。
これは事実。
あんなに静謐なイーストウッド作品で、一度も感じたことのない眠気をだ。
そこまではいい。
良しとしよう。好きな俳優もたくさん出ているし、ド迫力の映像を大画面で体感して、ポップコーンをほおばりながら異空間にトリップできる2時間の旅が、私にとって何物にも代えがたい娯楽だから。
エンディングロールで、実際に亡くなった人たちのポートレイトをインサートされるまでは。
それを見て、一気に興ざめしてしまった。(いや、眠気から覚めたと謂うべきか…)
この映画の立ち位置がわからん。どこに視点を置けばいいのか。
確かに、事故の起きる背景は丁寧にあぶりだされている。営利追及の企業体質と、交代制ゆえの相手番に交代するまでの「事なかれ主義」。ただのディザスタームービーではないと言いたいのだろう。
それとも、この事故に実際に関わった人たちの社会的な中傷に配慮して、こんな構造のなまくら映画になってしまったのか。それならいっそのこと、架空の企業を舞台にした、危機脱出パニック映画に振り切って、徹底的に娯楽を追求すればよかったのに。かつての「ダイハード」が起こした奇跡のように。
とにかく、実話ベースでピーター・バーグ監督、主演マーク・ウォルバーグといえば、「ローン・サバイバー」で一度がっかりした覚えがある。
そして、ボストンマラソン爆破テロを題材にした「パトリオット・デイ」が公開を控えているのだ。これも裏切られる予感がプンプン漂っているぞ。