「東北大震災と絡めるエクスキューズ」夢の女 ユメノヒト いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
東北大震災と絡めるエクスキューズ
多分、あの未曾有の天変地異が起こった事で、否応なしにリセットになった主人公の原点回帰ロードムービーを描きたかったというフックなのだと思う。
まるで浦島太郎状態の主人公は、若い頃に精神病と診断され、人生の大半を病院で過ごすこととなるが、震災後に診断の結果
退院を告げられる。娑婆にでた男はしかし喉の癌を患い、声を奪われる。そんな初老男がしてみたかったことは、学生時、学校でヤリマンでありそして初体験の女ともう一度再会すること。福島から女がいる東京までの道中、ファザコンの女と出会い、想う女の孫に金を盗られ、それでも愚直に女を捜す男。俗世に塗れずに過ごしてきた男に対し、周りの人間達はその『山下清』的佇まいに心が解けてくるようになる。せっかく再会した女はしかしその学生時代の行為を思い出したくないので、男を邪険に扱うが、段々とその純粋さに心を開いてくるようになる。
という筋書きはこんなに詳細に必要ないのだろうが、人は自分よりも劣ると思ってる人間には優しくなれるし本音も語れる、そんな真実を描きたいのだろうと思った。前半の空が異様に広い福島から、隙間にしか青空を望めない東京。そこで全てを福島に封印して置いてきた女は、声が出ず空気の漏れる音だけで謳う大瀧詠一『君は天然色』に張っていた気持ちが絆されていき、気がついたらデュエットをする。そしてその後、あの学生時代に海岸で初体験をしたように、もう一度行為をするのだが、実はゴムが無かったため、あの時は手で済ませていたということを思い出す。そんな間抜けな事実なのだが、それでも男は最初の女であること、そしてその後は一切外界との接触を断たれた人生からするとその女は社会そのものであった。そんな男の情けないがしかし狂おしい性を静かに表現している作品である。
ただ、一寸興ざめしてしまったのは、作品とは関係無い部分なのだが、上映後の監督と女優陣とのトークショーでの、監督の態度が、椅子にふんぞり返って、面白くもない質問を女優にぶつけていたこと。一応、ショーなのだから、せめて司会的な人がいれば又違った作品への添え物となるのにと残念である。