ウィッチのレビュー・感想・評価
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信仰と本能、抑圧と解放。
1630年のアメリカ・ニューイングランド地方。
宗教観の相違から集落を追放され、人里離れた森の近くで
新生活を始めた清教徒の家族が、赤ん坊の失踪を
きっかけに、森に棲む魔女の恐怖にさらされるという物語。
いやはや、おっそろしい映画でした。
冒頭のヴァイオリンとコーラスの不穏な響きから怖いし、
赤ん坊の末路には序盤から背筋が凍る。そこから先も、
暗く冷え冷えとした色彩の映像と、淡々と底無し沼に
沈むかのようにずるりずるり悪化していく展開が恐ろしい。
灰色の空、青黒い森林、洞窟の暗黒、
鴉のついばみ、白山羊の赤い乳、黒山羊の金の眼、
双子の無邪気な悪意、徐々に精神を病んでいく母、
ケイレヴとトマシンの狂気じみた恍惚のおぞましさ……。
...
僕はキリスト教の考え方に詳しくはないので、
本作のテーマ云々を考察することは難しいが、
えもいわれぬ恐ろしさと共に感じたのは、
盲目的に何かを信仰することの危うさだ。
あの父親はとにかく厳格だったというか、己の信仰を
頑ななまでに実践し、それを家族にも課していた。
ことあるごとに子供達に罪悪について説いて聞かせ、
神への畏れや罪悪感で彼らを律しようとしていた。
だが、たとえ罪悪だと言われても、嘘をついたり情欲に
駆られたり怠けたい遊びたいと考えてしまうのが人間。
トマシンやケイレヴのような多感な時期の少年/少女
であれば、その教えに反感を抱き始めても当然だ。
ケイレヴは「罪をあがなう暇もなく死んだ幼子は
地獄行きなのか」と不安と疑問を抱いていたし、
トマシンに至っては家族、特に父母への不信感と
怒りを徐々に露わにしていった。
母はトマシンの勤労をひとかけらも信用して見せず、
父は「嘘は罪悪」と言いながら銀食器の件で嘘をついた。
彼は家族の前でトマシンを悪者にしただけではなく、
金策に失敗して娘の奉公の話を出したことになる。
家族間の不和は、魔女に襲撃のチャンスを与えた。
むしろ魔女たちはそれを狙っていたのだろう。
一家に魔女の襲撃を防ぐ手があったかは分からないが、
少なくともあの父親が家族に律した信仰――ここでは
いっそ価値観や教育と言い換えても良い――は、事態を
悪くする方向にしか作用していなかったように思える。
彼は頑なにならずもっと早く集落の誰かに助けを
乞うべきだったし、家族の意見や自分の気持ちに
もっと慎重に耳を傾けるべきだった。
仮に神の教えとやらが完璧でも、それを伝承する
人間自体は不完全なわけで、そこには矛盾や恣意や
邪心が介入して当然だ。個人の解釈差だって出る。
それを鵜呑みにしたり他者に押し付けてばかりは
危険だし不和を生むばかりだと、個人的には思う。
...
女性映画としての側面についても触れる。
冒頭からトマシンは、集落を追放される事への驚きと
不安を隠し切れていない。序盤の神への告解でも
彼女の無邪気で奔放な心根が垣間見え、他の家族
と彼女の感覚には隔たりがある事が分かる。
皮肉な話、家族が存在する間、トマシンは
決して本来の自分として振る舞えなかった。
しかし、家族が消え失せた事で、ついに彼女は
自身を解放できた。なんて陰鬱なハッピーエンド。
きっと魔女たちは初めからトマシンが“同類”だ
と踏んでいたのだろう。彼女らはトマシンを
家族から孤立させ、その精神に限界まで圧を掛け、
最後の最後に爆発させたのだ。
欲望の赴くまま赤ん坊や幼い子供にまで手をつける
魔女たちはもちろん邪悪だが、トマシンの末路を
そのまま当てはめるなら、彼女らもまた強力に
抑圧された精神がマイナスへ極端に振れ切った者達、
その時代の女性に対する抑圧的な価値観が発端で
生まれた、忌むべき存在だったのだろうか。
...
ひとつの価値観や生き方に囚われ続けること。
その価値観や生き方を他者にまで強制すること。
ともすれば信仰・信念が陥ってしまうそんな負の
側面の恐ろしさをまざまざと見せつけられた気分。
ええもう、秀作ホラーだと思います。
にしても、前評判通りアニヤ・テイラー=ジョイは見事だが、
ケイレヴを演じた演じたハーヴェイ・スクリムショウ君も
負けず劣らずの熱演。名前覚えといた方が良さそう。
<2017.07.26鑑賞>
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余談1:
原題『THE VVITCH』は
なぜ『W』ではなく『V』2つなんだろうか。
・V≒5人の子供なら、VV≒相反する子供達、
悪魔に魅入られて変貌した子供達のこと?
・VITCH≒BITCH(売女)=母親視点でのトマシン?
・VVであの家族が手を繋いで神に祈る姿を模した?
・単純に、当時そんな表記があったとか?
謎やねえ。
余談2:
本作、鑑賞時点では新宿でしか上映してなかったので
静岡在住の自分は鑑賞を諦めていたのだが、たまたま
近くへの出張が重なって夜に観に行くことができた。イェイ。
しかし、元は鹿児島のド田舎出身の自分には、
深夜の新宿はまるで迷路のようで怖い怖い。
あれえどこ行っても同じ風景に見えるよ怖い怖い。
森で迷子のケイレヴ気分。
よかった
ストイックなところはすごく好みだったのだけど、クライマックスの悪夢の場面で眠くなってちょっとウトウトした。実際に悪魔がいたとしたら本当にあんな感じなのではないだろうか。
魔女の成り立ちを現代的に解釈した傑作ホラー
「魔女」と聞くとファンタジーに聞こえるかもしれませんが、今作で現実的に起こってしまった事態は「厳格な家庭の中で、娘が性的に成長してしまった話」であって、この手のストーリーは手を替え品を替え様々な映画の中で語られてきたため(「尼僧ヨアンナ」、「エクソシスト」、「ブラックスワン」など)目新しいものではないものの、キリスト教的なモチーフをストーリーに取り込みながらホラー映画としても良く出来ている点で素晴らしかったです。
それぞれのモチーフの意味は、
山羊=悪魔、男性性
うさぎ=性愛
りんご=原罪
割れた卵から血が…=トマシンの初潮
犬=忠誠心、貞節
要するに、トマシンが身体的に大人になることで、これまで均衡を保っていた家庭環境が崩れてしまう話で、その成長を理解出来ない人からしたら「彼女は魔女になってしまった」と言うしか出来なかったわけですね。
ちなみに、幼い子どもが誘拐されるのは、サバトという悪魔崇拝の集会の儀式(ラストのアレ)で子どもの肉体が必要になるから、と魔女裁判に記録されているそうです…。
主人公の女の子のトマシン(Thomasin)の名前の中に既に罪(sin)が内包されているあたりが、生まれながらにして魔女になることを運命付けられている感じを出していて良かったです。
罪とは
ヒステリックで盲目的なまでに信心深く、事あるごとに執拗なまでに神に頼り祈る人々が嫌いだ…
正直ただの雰囲気ダークホラーだと舐めてかかってたけど、ストーリーがちゃんと面白かった。
最後に何か解決やスッキリはしないが、不吉な出来事が淡々と でもテンポ良く起こって最高に気持ち悪い結末へ繋がる。
トマシンにわりと感情移入できたのも良かった。
降りかかる受難を自分のことのように感じられ、両親や双子に本気で腹が立つ。
ケイレブの絶命までの祈りのシーンとラストの魔女達による全裸キャンプファイヤー&トマシンの笑いが脳裏に焼き付いて離れない。
地獄愛でも全裸キャンプファイヤーしてたけど、狂ったように踊る人々に炎のコントラストも相まって恐怖倍増なんだよね…
視覚的な描写は抑えめだけど最低限のショッキングなシーンは写してちゃんと気持ち悪く不快で怖さを感じる。
ずっと薄暗くBGMと効果音がやたらめったら恐怖を煽るのには少し辟易とするけど。
人間の嫌なところと悪魔や魔女のオカルト的な嫌なところ どちらも堪能できて、心の重くなる展開ばかり襲ってくる映画だった。私は好き。
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