「ホラー映画としては抜きん出た怪作」ザ・ボーイ 人形少年の館 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
ホラー映画としては抜きん出た怪作
ホラー映画でこんなにも面白いってことがあるのか!?と少し度肝を抜かれた。後半以降は釘付け!
今作はベビーシッターとして雇われたローレン・コーハン(以降面倒くさいのでマギー)が、不気味な少年の人形を向き合っていく愛の物語である。終盤までは・・・・
一見、特に日本版の安っぽいパッケージだと、お化け人形に襲われる典型的なホラー映画を想像する筈。実際、マギーが屋根裏部屋に閉じ込められる辺りまでは、そんな感じだった。
しかし、物語は途中からまさかの局面を迎え、マギーがその人形を愛し始めるのです!
ああ~こういう方向性に行ったのか~と思うのも束の間。マルコムに対するネタバラシもあっさりと終わり、いきなりDV男が登場!
そしてDV男にブラームスが攻撃を仕掛けるまでは予定調和だったのが、その後でまさかの展開に。
なんとブラームス君生きてました★(ゴリゴリマッチョな姿で笑)。
いよいよ実体化か分離化でもしたのかと思って、メチャクチャなオカルト展開に身構えていたものだから、これは嬉しい誤算だった。
ってことは、入水自殺した夫婦の心境にも合点がいく。初日に親父さんが外でマギーを諭す姿を不気味に覗いていた母親のシーンにも合点。そして去り際の「Sorry……」にも。
恐らく二週目以降の鑑賞でも色々と発見が有るだろう。
しかし、突っ込みどころや惜しい部分も無くはない。例えば、そもそも体臭とかどうなの?という疑問が湧くし、夜中にむしゃむしゃ食ってるところがバレてもおかしくない。
何より、マギーとマルコムがイチャついてる所に突撃してこない自制心が有るブラームス君は紳士だなあ(ハナホジ)。
それに、終盤のブラームス君登場以降の展開。マギーにだけは違った態度を取るのかと思いきや、割と普通に襲ってくる(笑)。この辺は面白かったんだけども、もう少し深い展開が欲しかったかなと。
10のルールについてはあまり重要じゃなかった等の意見も多いみたいだが、彼女を縛り付ける理由として機能していたし、ネタが分かってからの考察としても機能している。でもせっかくだから、3日に一度はブラームス君とお風呂♪みたいなルールも加えといて欲しかった・・・
【ここで一つ面白い考察を発見したのでご紹介。その名も『マルコムグル説』】
よくよく考えてみてほしい。ブラームスを壁の向こうで飼っているまでは分かるとしても、音楽を大音量でかけるルール(物音かき消し用)や本を読み聞かせるルール等、マギーが来る前から、ブラームスの存在を知らない人間に対応できるようなルールが出来上がっているのだ。
本作中では序盤に夫婦とブラームスが会話をしていると思われる場面が有るので(家族だけで話したいのところ)、夫婦とブラームスが間接的なコミュニケーションしか取れない訳ではなく、むしろ直接やり取りができる関係であることが分かる。
ましてや、ブラームスはルールの内容等からも分かる通り、精神年齢が成長していなさそうな人間だ。マギーが来ることに備えて、訓練ができるとも思えない。
つまり、マギーが来る以前にも同じ様な形でベビーシッターが来ていた可能性が高い。そしてその末路が悲惨だったからこそ、去り際の母親の「Sorry…‥」と入水自殺に繋がっているのではなかろうか、という考察だ。
そもそも、息子の存在に気を病んだからといって自殺するのは大げさな気がするし、女の子を殺した罪隠しにしても、今更感が有る。なら、一体なぜこのタイミングで夫婦は自殺したのか?去り際の「Sorry…‥」の意味は?
これらを紐解いていくと、自然と上記のような考察が出来上がる。
そしてマルコム。彼はそれらの事情を知っていたのではないかという考察がここで出てくる。マルコムは執拗にマギーを外に誘おうとしていたり、やけに屋敷の事情に詳しかった。
何より、マルコムだけが屋敷への配達を任されていて、メモにもその存在が明記されている。一配達人にしては、夫婦からの信頼が高すぎではないかと。
だが、マルコムはブラームス(ムキムキバージョン)の存在は知らなかったようだし、人形の移動にも驚いていたという事実が有るので、この考察は最後のピースが埋まらない感じ。もしかしたらそういう方向性も有った名残なのかもね。
《総括》
素晴らしい作品だった。恐らく20年後ぐらいには名作映画として語られていることだろう。ただ、もう少し考察で遊べる要素が有れば完璧だった。そこだけ。
あとマギーのパイオツが最高