「熱狂的な映画ファンに捧ぐ。ホドロフスキー監督に観て欲しい!」マイティ・ソー バトルロイヤル さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
熱狂的な映画ファンに捧ぐ。ホドロフスキー監督に観て欲しい!
"いつも自称エリート達に攻撃される。超大作は、インディペンデント系やシリアスな作品より、思想も愛も無いって"
あ、私が言ってるんじゃないです!
ジェームズ・ガン監督が言ってはりました。
ブレード・ランナー2049より、カルト臭がする罠。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』
原題 Thor: Ragnarok
※ネタバレ注意。
(あらすじ)
マイティ・ソーシリーズ3作目。
『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン(2015)』の3年後のお話。
という設定です。
アスガルドを追放された父親を探すソーの前に、強大な敵ヘラ(ケイト・ブランシェット)が現れる。
敵とは、ソーの姉ちゃんだった!
兄弟&姉、仲悪すぎだろ!って突っ込ませる為の、確信犯的ストーリー。
姉ちゃんに飛ばされた星で、ハルク(マーク・ラファロ)やアスガルドの女戦士ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)と出会い、もちろん兄ちゃんであるソーに悪意のある羨望を剥けるロキ(トム・ヒドルストン)と、姉ちゃんに支配されたアスガルドに向かう。
冒頭、ツェッペリンの「移民の歌」で、ソーのハンマーが観客に向かって飛んでくる。
あぁー、かなり4DX意識した作り。
そして、
The hammer of the gods will drive our ships to new lands !!
と、テンション上がる前振り。
ですが、それだけではなく、この曲に込められた意味を考えるなら、そこに政治的なメッセージがあることが分かります。
2013年以降のマーベル作品は、村上春樹メソッドによりストーリーが多重構造になっている。
村上春樹メソッドとは?
簡単に言うと、小学校の時に習った「智恵子抄」ですよ。
智恵子抄の中の「あどけない話」を覚えてますか?
「智恵子は東京に空がないという」
A読者 「は?空がないってなんだよ!あるじゃんそこに!」
B読者 「化学汚染などで東京の空は綺麗に清んでいない。だからこの空は、私が思う空ではない=空はない」
AとBの読者の力量が違いますが、それでもAにはAの、BにはBの物語が広がる。そんな仕掛けと企みをもって書かれているのが、村上春樹の小説です。
AとB、双方が納得する作品は、なかなかありません。
だからこそ村上春樹作品はベストセラーになるし、だからこそ消費される大衆文学として、ノーベルがとれない理由の一つでもあります。
最近のマーベルは、まさにそれです。
本作を観ると、黄色、黒、赤、紫、サイケデリックな色彩に圧倒されます。
大好きな『フラッシュ・ゴードン(1980)』 にインスパイアされてる!と思ったんです。
が、サイケで未来的でありながら無骨で懐かしく、どこか昆虫を思わせるメカを観て、これはクリス・フォスだ!と気付いたんです。
クリス・フォスは、日本ではあまり有名ではありません。
最近では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のガン監督が感銘を受け、メカデザインの監修として召喚されました。
それに、そもそも。
『フラッシュ・ゴードン』は、ある未完の作品に影響を受けて作られた作品です。もっというなら、SWも!
未完の作品は『エル・トポ』や『ホーリーマウンテン』などで知られるカルト監督:アレハンドロ・ホドロフスキーが、ギーガー、メビウス、オーソンウエルズ、ミックジャガー、ダリ、そしてクリス・フォスを集めて作ろうとした『DUNE』です。
このあたりは、ドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE(2013)』に詳しく描かれています(観てね)。
ソーが飛ばされる星のグランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)は、明らかに『DUNE 』のミック・ジャガーですもん。
冒頭に『ブレードランナー2049(2017)』よりカルト臭がすると言ったのは、この点からです。
そもそもカルト映画には、大きな欠点がある場合が多いです。
例えば私の好きなジョン・カーペンター。
サングラスをかけるかけないで、5分間も殴り合う『ゼイリブ(1988)』
凝ったクリーチャーを作った癖に、綿を詰め込んだチープな人形を振り回す『遊星からの物体X(1982)』
けれど、熱狂的なファンは、そこを愛しています。
映画の歴史を見ても、長く語り継がれ愛される映画は、興行的に成功した作品より、欠点を愛する熱狂的なファンがいる作品。
2013年以降のマーベル、本気です。
『ホドロフスキーのDUNE』は、最高のスタッフをそろえ、完璧な企画と評されながら、ホドロフスキー監督の情熱と想像力と強靱な精神に、ハリウッドはお金を出すことをしませんでした。
尊厳も、深い感情も、無視したハリウッドスタイル。
マーベルは、ハリウッド超大作の皮を引き続き被るAと、
ホドロフスキーの映画に対する情熱=世界中にいる同じ情熱を持った人達に敬意を表するBの、多重ストーリーを『マイティ・ソー バトルロイヤル』でやっています。
そこは、本作の監督からも窺えます。
監督がタイカ・ワイティティ。俳優さんでもありますね。
監督作って『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア(2014)』だけでしょう?
大好きですけどね!
よくこんな、ビッグバジェットの映画を任せるなぁ-。
それは『スパイダーマン ホームカミング(2017)』のジョン・ワッツ監督もそうですけど。
マーベルが、映画業界に貢献しようとしてるのは明かなんですよ。
DCも見習って欲しいです。
またソーシリーズって、『アナと雪の女王(2013)』より、もっと真剣に家族の絆に向き合っていると思います。
アナ雪では、「私はわたし~」つって歌っていた姉ちゃんを、妹が自分の価値観で引き戻す話ですよ。
でも兄弟であっても、家族であっても、わかり合えない。違う。それでいいんだ。違いを認めて、兄弟として付き合っていくんだ。という、ソーとロキのラスト。そして、弟に姉ちゃんをやらせない!原題のRagnarokが生きてくる!
私は秀逸だと思いましたね。
脚本がまた丁寧だもん。
ざっくりとしたAのストーリーの下に、幾つかの層がある。
細かな伏線をちょいちょい綺麗に回収し、ブレードランナーの熱狂的なファンの鬱憤が新作で溜まることを予想し、SW新作、古くさい価値観にとらわれた『ワンダー・ウーマン(2017)』に対するアンチテーゼ、原題Ragnarokとあるように北欧神話をちゃんとベースにし、近々公開されるであろうSF映画を容赦なく潰す脚本。
そして好きな人は大好きだろう、ヨーロッパ的なギャグセンス。
分かる人だけに分かる目配せ。いやー、マーベル凄いです。
私も熱狂的なファンとして、映画業界に微力ながら貢献したいと思える作品でした!
ホドロフスキー監督に、ぜひ観て欲しいです。