「全体的に雑」スター・ウォーズ 最後のジェダイ Eldon Tyrellさんの映画レビュー(感想・評価)
全体的に雑
新旧三部をリスペクトしつつ、かつ差別化を図らないといけないわけだからローグ・ワン等のフォーマットを踏襲すればいいスピンオフとは事情が違うのは分かる。しかし、それを考慮しても各所の雑さや詰めの甘さはいかんともしがたいように思えた。
まずルークの描写が酷すぎる。伝説のジェダイも挫折感に打ちひしがれ偏屈になった中年でしかなく、まるで威厳がない。弟子(レン)を正しく教育できないショックであの尖閣諸島みたいなところに引きこもってたんだろうなというのは前作の時点で予想できたけど、まさかレンの暗黒面の深さにビビって寝首を掻こうとしていたというあまりにも情けない理由が明かされるとは(しかも反撃されて逃げられるのは…っていうかレンと共に逃げた弟子はどこ行った?)。結局レイに修行らしい修行も伝授できてないけど、そもそも彼女は素人なのに初戦でいきなりレンをダウンさせてるし、これに関してはもう大したことではないですね。まあ彼は若い頃より自分の意思で修行に臨んだはずなのに、師匠に出来ない出来ないと文句ばかり言うような人間であり、元から後進を教授する器ではなかったのかもしれないから、むしろ自然なのかもしれないけど、せめてもう少し老成したマスターらしさを見せてほしかった。だってこれ勧善懲悪のエンタメ作品ですよ?
次に余計なシーンが多い。ファースト・オーダーの追跡を止めるコードを破れる人物を探すためにフィン達が出ていくけど、敵の追撃から必死で逃げてる時に何悠長なことやってるんだろうっていう感じ。しかもそのあとの星(カジノや競馬の描写にひねりがない。南仏の観光地にでも着いたのかと思った)に着いてからの描写もフィンの人間性を強調したかったのかもしれないが、早くもジャージャー・ビンクス的な評価をされてて苦笑するしかない新キャラのローズは強欲な金持ちが貧者を食い物にして戦争を煽ってるんだ!という取ってつけたようなプロレタリア論を口にするばかりで正直必要性を感じなかった。というか燃料切れかけてる死に体の船相手にいつまで経っても追いつけない、シールドも破れない(普段は簡単に当たるくせにこういう時だけ都合よく全弾ブロックできる!)ファースト・オーダーの艦隊が間抜けすぎる。またこの追撃戦がダラダラと緊迫感に欠けており、いつまで追いかけっこやってるんだと思ったら唐突に「あそこの星に反乱軍の古い基地があるらしい!そこに逃げ込むぞ!」となるし。あんなにハッキリ星が見えるくらいまで来てたなら最初からそこに向かえ!あとポスターにまで出てるからにはソロに代わるチューイの相棒なのかと思いきや単に窓から部屋に入り込んだスズメ程度の存在だったポーグ…
こういう余計な部分がある一方で、スノークとは誰だったのかとか、何故レンは彼に師事していたのかとか、レイの出生の秘密はといった、前作でそれとなく伏線張ったはずの、観客が特に知りたがったであろう部分は全く触れられないか、さして重要じゃなかったのが残念すぎる。次作で回収するつもりなのかもしれないとしても、スノークは死んでしまった以上触れられることはなさそうだし、特にレイのくだりは「ギャグマンガ日和」のソードマスターヤマトかと思うくらいあっけなかった。私もフォースの強い親のもとに生まれたのかと思ったがそんなことはなかったぜ!
後はフォースの扱い方が良くない。一応は超能力に近い扱いを受けていたけど、一部の限られた使い手だけが予知夢を見られる、相手が近いところにいるのは分かるけどあくまでぼんやりとしたもので、呼びかけも具体的な音声を伴わない感覚的なもの、といった決して何でも出来る万能の神通力ではなく、五感が発展していったような、非合理的な神秘の力という解釈だったと思うんだけど(だからこそEP1のミディ=クロリアンというあまりにも無粋な設定は無かったことにされた)、今作では遠く離れた者同士姿もハッキリ知覚できて会話もするし(アダム・ドライバーの肉体は素晴らしいが、そんなサービスシーンは要らない…)、幽体離脱して戦闘もできちゃうし、果ては宇宙空間に放り出されても無意識の力で生還できるし(ここはもうギャグにしか見えなかった)、まさになんでもありでフォースの絶妙な概念を損なってしまったように思えた。ルークはそんな今まで見たことも聞いたこともないような珍妙な能力を披露して力尽き、フォースとなり消滅するくらいなら生身で出向いた方が良かったと思うんだけど、長期化した引きこもり状態からの外界への復帰はそう容易ではないという事でしょう。
良かったところといえば、オープニング・タイトルの一部にEP4のメロディを引用していたことと、R2がルークに出会ったばかりの頃のレイアの映像を見せるところ(ここはルークでなくても感傷的になるはず)、ようやくルークとレイアが再会できたところ等の同窓会的な懐かしさを感じさせるシーンがあったところ。またミレニアム・ファルコンは相変わらずカッコいい(どんなに内容がダメでも「タイ・ファイター・アタック」が流れる中疾走する定番シーンはシビれるとしか言いようがない)。むしろ今作のヒーローはルークでもレイやフィンでもなくファルコンなんじゃないかと思うくらい。
全宇宙を一つに繋げるフォースも暗黒面の力もディズニーの金満体制には勝てなかった。そんな状況で最後にどんなオチをつけてくれるのか、腐ってもスター・ウォーズ、期待しない程度に期待したいと思います。