「映画の愛美と原作の愛美」ぼくは明日、昨日のきみとデートする マルットロイドさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の愛美と原作の愛美
2回目の投稿です。
私の場合、映画を観て大感動!!!→すぐに原作本を(10~20代女性の1位に抵抗はありましたが)買い求めその日のうちに読み切ってまた感動→コミックも読む(ほぼ原作本に忠実に描かれていました)→もう一度原作本を読み返す(やっぱり、いい)→再び映画を観る(始まって1~2分で、もう涙腺が…)。これが昨年のこと。どっぷりハマってしまいました。今年に入り、先日3回目の映画でやっと冷静に鑑賞できたかな、と、そんな状況です。
冷静に映画を観てまず感じたのは「なぜ愛美はコートを着ているんだろう」ということでした。ご存知のように小松菜奈さんはスタイルが抜群に良い。なのにコートがそれを隠していてもったいない。映画は原作より寒い方に2ヶ月ほどずれており、そのために原作では着ていないはずのコート(コミックでも着ていません)が必要になります。撮影スケジュールという「大人の事情」ではなく、これが三木監督の「こだわり」なのではないかと思い考えを巡らせてみました(あくまでも個人の感想ですが、お読み頂ければ幸いです)。
他にも原作と違うところはいろいろあり、コートの他に愛美がらみで特に気になったのは、
・高寿の1日目(愛美の最終日)の別れ際、愛美が高寿に抱き付い て…大丈夫だよねが映画にはない。
・愛美が途中で髪を切っていない。
・10才の高寿に会う愛美がサングラスをかけていない→愛美の「女 優」を思わせる部分が映画には全くない。
原作にあって映画にないものは「勝ち気な行動力」と「女優」。また、原作ではキーワードと思われる「大丈夫」という言葉も映画では(たぶん)言っていません。
私の想像ですが、三木監督は愛美から「積極性」「完璧」「演技」のような部分を取り除きたかったのではないでしょうか。純真な乙女が一途に高寿を想い、一瞬一瞬を大切にかみしめるように「生きている」。その原動力は、貴い「純粋な愛情」です。そこには「完璧な演技」という要素も不可欠ですが、それを割り込ませたくなかった→あれだけのことをやり遂げるには、生半可でない強い意志を持った完璧な演技が要求されますから、原作のような「完全主義でその経験と容姿を活かして将来女優になる」という流れは納得できます。高寿への愛情がその原動力で、それが愛美の「演技」の才能を目覚めさせたとしても不思議ではなく、彼女の印象を悪くするものではありません(実際、原作は10~20代女性の1位です)。でも、映画では敢えてその部分を見せないようにしていると思われるのです。
スタイル抜群の小松さんですから、原作通りに描くならば「誰もが振り返る女性」のファッションに出来たはずなのに、敢えて季節を原作よりも冬に近くしてコートを着せ、注目するのは彼女のプロポーションじゃないよと言わんばかりです。ヘアースタイルも乙女っぽいですし、原作ほど勝ち気ではなく、表だって分かるような行動をあまりしないから、抱きつかないし途中で髪を切ったりもしない。そして完璧主義者でもないから「大丈夫」とは言わない…高寿の1日目(愛美の最終日)で涙を一筋流し、「また明日ねっ」と立ち去り、そして、電車の中で泣き崩れる…それが映画の愛美です。三木監督は、可愛い乙女の純粋な愛情を強調→つまり、愛美をピュアな乙女として描きたかったのではないでしょうか。
その分、小松菜奈さんにはより難しい課題が課せられていたと思います。ただでさえ時間軸逆転の中での感情表現はとても難しいと思えるのに、原作と違って表に出る勝ち気な行動をあまりしないのでより深い内面の表現が求められます。小松さん自身、相当苦悩したのでは…でも、しっかりやり遂げました。小松菜奈だからこそできたとも言えます。まるで、小松菜奈さんこそが原作の愛美で、そして、映画の愛美を完璧に演じ切った…そんな印象です。
ちなみに、愛美のコートは、彼女の中にある「秘密」を暗示しているとも見えます。映画のポスターもそんな感じですね。そして終盤、愛美の1日目、初めての高寿との対面で、コートを脱いだ(持った)姿で教室の扉から登場します。秘密を持ってはいるがまだ着ていないという感じで。白いセーター姿は初々しく(ここの演技も素晴らしい)、そこで初めてまばゆいばかりの美しさが強調されます。
ちなみにちなみに、蛇足ですが、バックナンバーの主題歌は原作のイメージで作られたのでしょう(パンフレットにも、原作を読んで…とあります)。「大丈夫」が多用されていますし「勝ち気」「演技」という部分も感じられます。まさに、映画にない「別れ際、高寿に抱き付いて…大丈夫だよね」という原作の愛美です。それこそ「大人の事情」で映画が出来上がってからでは間に合わなかったのかもしれません。あるいは、「名曲」ですから監督も下手にいじりたくなかった(いじれなかった?)、あるいは、原作ファンのためにそのままにした…のかな?
最後までお読み頂いてありがとうございます。