「スピルバーグが込めた映画の未来への皮肉」レディ・プレイヤー1 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
スピルバーグが込めた映画の未来への皮肉
この映画、「イースターエッグ探し」自体がストーリーの軸になっていますが、本当に画面の隅々に至るところにあらゆるオタク要素が散りばめられています。『ファンボーイズ』もそうでしたが、好きな人にはとことん楽しめる構成の映画で、夢の国で隠れミッキーを見つける喜びに近いものがあるかもしれません。
私個人は、アイアンジャイアントがツボでした。
しかし、監督のスピルバーグが実際にはどの程度クリエイティブな要素として絡んでいるのか分かりませんが、この映画には構造的に大きな弱点があります。
それは仮想現実と、リアルな実生活の描き分けを、トリッキーな演出も含めてひんぱんに繰り返していることです。
『マトリックス』や『アバター』が楽しめなかった人には、ストーリーそのものが理解できないと思います。仮想通貨やEスポーツの隆盛など、すでに現実に起きていることを飛躍させてストーリーを展開してありますが、SNSにすら普段、触れたことがない人には共感のしようがない映画です。このレビューを見ている時点でそれは無い、そんな人いるの?とお思いの方もいるでしょうが、原初的な映画では、汽車が画面に向かって走ってくるだけで観客が悲鳴をあげ逃げようとしたほどで、人間の本能に訴えかけてくる映像の迫力に観客は魅了されるのです。仮想空間で繰り広げられる壮大なバトルが、どれだけぶっ飛んだ楽しい映像であっても、実際に生身の体に受けるダメージが伝わらなければ、映画本来の面白さは半減します。
この映画では、有名俳優をキャスティングしなかったこと、状況音楽とノイズの使い分け。実生活においては、部屋にぬいぐるみの一体も飾られていない、アートらしきものさえも存在しないようで、かろうじて落書きが氾濫している程度などという工夫をこらし、仮想現実と現実との描き分けを分かりやすく演出し、終盤にはそれを逆手に取った「演出」も使われています。
さらに説明的セリフの多さ。いつもは字幕で見たいほうですが、今回は日本語吹き替え版で良かったと思いました。ただし、声優の演技の好みは別です。
そんな弱点が気にならない人には、この映画はとても楽しめる「オタクムービー」で、リピータが続出すれば、意外にヒットするかもしれませんね。
日本のアニメ特撮キャラが多数登場しますが、これはオマージュというより、許諾が安かったんじゃないかと思いました。
最後に、スピルバーグがこの映画を監督した意味について考えてみたのですが、やっぱり最近のフランチャイズ映画、特にマーベル作品に対する閉塞感に、映画の先行きを憂える皮肉を、訴えたかったんじゃないかと、個人的には思いました。「オアシス」の中で、ダンスを楽しんだり、フォーミュラーカーを自在に操るレーサーになったり、なんだって可能なVR体験がもたらす興奮の前に、もはや映画という一つの文化は「詰んでいる」状態になっていて、空虚である、と。それでも彼女とキスをすることのほうが、世界を救うことよりも大事だというメッセージを込めて、もういちど原点回帰を目指すのでしょう。