「あまり期待していなかったが、意外と良かった」レディ・プレイヤー1 alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
あまり期待していなかったが、意外と良かった
何で期待してなかったかというと、スピルバーグが最近あまりヒット作に恵まれてなかった…というか、あまり人に何かを伝えたいという気持ちを感じられない作品ばかりになってきていたように感じていたため。もう金は充分稼いだし「自分の好きなもんを自分のために作ってま~す」みたいなのが多く感じられ、個人的にはそこそこ好きだけど人に勧めるかと言われるとウーン…みたいな作品が多かった(気がする)。
今作は最近のスピルバーグ映画には珍しく、拘りのあるコアなファンにも、映画ファンにも、そして一般の「ちょっと見てみよか」程度の人にも、それなりに楽しめる出来になっていたと思います。
タイトルの『レディ・プレイヤー1』は「準備は良いか、プレイヤー1」という意味で、本作はタイトル通りVRゲームに入り込んだプレイヤーが、ゲームをクリアしつつ(ゲーム内でも現実世界でも)敵に追われ、最終的にその敵を倒す…というストーリー。
あらすじ:
環境汚染や気候変動等により大地は荒れ果て、貧富の差が極限まで拡大し、ほとんどの人がスラム街で暮らしている近未来。人々は楽しみを仮想現実世界にしか見出せなくなっていた。世界中の人がオアシスというVRの仮想現実に集まり、寝食と風呂や手洗い以外の生活をそちらで過ごすことが普通になっていた。主人公のウェイドも、両親を亡くし禄でもない男と同居している叔母に引き取られたものの、家に居場所がなく近所のトレーラーの中でオアシスに入り、そこで仲間のエイチと共に賞金集めをする日々を送っていた。しかしある日、オアシスの開発者ハリデーが死んだことで、遺言として「オアシスの3つの謎を解いた者に運営権と遺産を譲渡する」と発表され、プレイヤー達は躍起になって謎を解こうとし始める。ウェイドも憧れのプレイヤー・アルテミスと交流を図ったり、エイチの仲間と助け合ったりして1つ目の謎を一番に解いたことで、オアシスで一躍有名になる。ハリデーの遺産目当てでゲーム関連の研究者の最新鋭まで雇い、プレイヤーも何百人と雇って謎を解こうとしていた大企業・IOI社はこれに激怒し、ウェイドを1位の座から引きずりおろそうと画策する。
ウェイドが結構不遇な身の上ですが、そこら辺はだいぶサラッとしか触れません。笑
多分、スパイダーマンだの何だのと設定被りまくってるから今時珍しくもないし、ほとんどの時間ゲーム内にいるので、あくまで「こいつがゲームに没頭するようになったのはこいつらのせいね」という一文で終わるような設定でしかないせい。
叔母は一応家族として認識してるみたいですが、同居の男がまじでそこらに転がってる野良犬のフンレベルのクズ。こいつのせいで主人公がほぼトレーラー生活になってるといってもいい。
最近のスピルバーグ作品にありがちな、ネタは良いけど調理が雑、みたいな結果なのかなーと思いながら見始めたんですが、これまた良い感じに仕上げてくれてました。やっぱりスピルバーグって、特撮とかロボとか、何かちょっと少年時代にお気に入りだったものをメインに据える方が、本人も作ってて楽しいのかもしれません。
オアシス内では人種や性別等に縛られずに自分のキャラクターが自由に作れる…ばかりか、そもそも実在するものじゃなくても良いので、例えばピカチュウとか、ストリートファイターのリュウとかが後ろにチラッと出てきます。
また、自己キャラだけでなくオアシス内でプレイするゲームも、レーシングゲームにキングコングが出てきたり、戦争ゲームにガンダムが出てきたり、やりたい放題w
これがやたらと気合入ってて、メカゴジラが出てきた時のBGMが、ちゃんと日本の特撮の時のアレ。これ著作権の許可取るだけでいくらかかったんだろう…ってくらい、細かなところまでちゃんと「あの会社のあのキャラ」になっています。こりゃーオタクの皆さんも嬉しいでしょう。
最近だと『スパイダーバース』でガンダム風のロボに乗った女子高生が別世界のスパイダーマン…みたいな設定がありましたが、あの日本のサブカルへの偏見を集めたような中途半端さはね!ちょっとわたくし納得いかなかったですね!!!(何急に)
でも、もっと遡って例えばディズニーピクサーの『ベイマックス』なんか、主人公が日本人で世界観も日本とアメリカの融合っぽくしたかったんだろうけど、明らかに中国とアメリカの融合でしたしね。まあ、アメリカで作った「日本ぽい景色」なんかこんなもんだろと。それで言ったら女子高生inロボなんて???一応は事実だし????ケチつけるほどのもんでもないですけど?????(ウザ絡み)
そんな感じでアメリカ人の「日本ってこんな感じ」観にめちゃくちゃ白けた感情を持ってた自分にとっては、今作の日本観は良い意味で「日本ってこんな感じ」をちょっとずつ摘み上げて映画の中に盛り込んでくれた良作だと思います。
主人公の仲間に森崎ウィン演じるトシロウと、フィリップ・チャオ演じるゾウがいて、一応ちゃんと日系・中華系らしき人を起用しているんですが、正直ほとんどのアメリカ人は日本人と中国人なんか見分けつかんだろと(ちなみに原作ではゾウも日本人だったらしい)。オアシスではトシロウが武将キャラを使ってるんですが、ちゃんと現実でもトシロウが「日本人」とわかるようになってます。随所でお辞儀をしてくれるのがちょっと可愛い(近年アメリカでは日本人=お辞儀のイメージが強いのだとか)。
長年に渡り、頻繁に日本に来てくれていたスピルバーグならではの、「日本通のアメリカ人目線の日本観」を見事に映画にしてくれたおかげで、久々にモヤモヤせずに日本の小話?が出てくるアメリカ映画を楽しく見ることができました。
別にモヤモヤってほどでもないけど、やっぱり「いや知らねーけどこんな感じだろ」みたいな雑な作りだと、日本が出てるとか言われてもちょっと失笑もんですよね…かといって日本人にしか通じないような「ローカルネタ」みたいなもん入れても海外じゃ誰もわからないだろうし。そういうアメリカ人でも日本のことを(オタク的な意味で)多少知ってる人なら「あ~それそれ!」と思うだろうし、日本に住んでる日本人も「あ~それそれ!」と同じ気持ちを共有できる、良いバランスで落とし込んでくれた手腕に感謝。
また、ゲームやアニメだけでなく、過去の名作映画も登場します。
迫力が凄かったのが『シャイニング』。いやあ…ブルっちゃうね(今の若い子に通じるのか)。裸のオネーチャンのシーンは、ちゃんと胸は隠されてて安心しました。笑
流石に裸でにじり寄ってくるシーンは子供に見せらんないよね!
でも『レディ・プレイヤー1』自体が子供向けに製作されたものなんだとばかり思っていたので、『シャイニング』のシーンだけはなかなかホラーな演出になっていてビックリしました。こりゃ小さい子にはどのみち見せらんないかも。
…ストーリーより小ネタ的なことばかり触れてしまいましたが、ラストも結構自分は好きです。
オアシスの開発者ハリデーは、もしかするとスピルバーグ自身なのかなーと思いながら見てました。ラストのハリデーの台詞も良いですね。「わかるだろ?」。
…ええ、わかる気がするけど雑な締めありがとうございます。笑
仮想現実でどんなに充実して、楽しんだ気になっても、結局は現実世界がなければ仮想現実なんて存在しないわけで…
最近「SNSばっかやってんじゃねーぞ!現実の方が大事だろ!」ってことを伝える作品は沢山ありますが、何か、何が違うかと訊かれるとわからないんですが、個人的には今作のこの啓蒙は他と一線を画した気がします。
スピルバーグくらいの歳になるともう、国、政治、経済、インターネット等々、あらゆる時代の変動を見てきたわけですが、その重みを感じるというか。
世界観やキャラ設定、テーマも、ありがちと言えばありがちなんですが、オアシスの中身があんなに綿密に作り上げられてるせいかもしれません。「あれだけゲーム内を充実させておいて『現実の方が大事』って意味がわからない」とレビューしている人もいましたが、逆にあれだけ充実した仮想現実を見た後だからこそのあの台詞なのではないかなと。
あれだけのものを作り上げた張本人が「それでもやっぱり、私達が生きるのは現実なんだよ」と言うのは、なかなか胸に来るものがありました。
恐らくキャラクターやゲームがテーマの映画なんだって~という意識で今作を見た人達には、圧巻の作り込みだったようですが、自分は特にサブカル的なものに詳しくないため、ラストのハリデーの部屋の方が印象に残ってます。
結局のところ、あらゆるものを手に入れても、大事な人とか大事な物とか、そういうのってずっと変わらないもんなんだよなあと。目新しいものを手に入れて、古いものを簡単に手放して良いかっていうとそうじゃないし、大事なものがもう二度と戻ってこなくなった時、どんなに新しく良いものを手に入れても、その穴を埋めることはできないんだろうな。
ハリデーが後継者に遺したかったのは、本当はオアシスというゲームではなく、「自分のようになるな」という教訓だったんでしょう。
老若男女問わず楽しめる作品だと思いますが、子供と大人で心に残るシーンは違うかもしれません。
もう一度見たいと思うほどのパンチはありませんでしたが、アクション好きの自分が、意外と派手なアクションシーンよりラストをしんみり見てしまったことが記憶に残る作品でした。
ん~、いや、あのラストのためにもっかい見ても良いかも…