ダンケルクのレビュー・感想・評価
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臨場感
前に「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」でダイナモ作戦について知り興味を持ったので本作を観てみた。
結果、作戦遂行の現場に居合わせたかのような臨場感だった。
現場の人々と同じく、作戦そのものについての詳しい説明はない。
視聴者は救助に向かう民間船の中とダンケルクの港で帰国船を待つ若い兵士の傍らの2箇所を行き来して、彼らと共に祖国に帰ることになる。
ダンケルクの戦いを描いた映画は沢山あるようなので、現場での緊迫感、名もなき英雄達の姿、非常時の集団心理などの戦争の幾つかの真実を、体験するように観るというノーラン監督の作戦もありだと思った。
役者陣の好演も光っていた。
Take Me Home, Country Boats. 時間の相対性を、戦火の三面鏡が映し出す。
1940年に行われた「ダンケルク撤退作戦」を、異なる三つの側面から描き出した戦争映画。
監督/脚本/製作は『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』の、後のオスカー監督サー・クリストファー・ノーラン,CBE。
ダンケルクへと向かう小型船舶に乗り込んだ青年ジョージを演じるのは、『ベルファスト71』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のバリー・コーガン。
戦闘機スピットファイアでダンケルクの撤退作戦をサポートする英国空軍パイロット、ファリアを演じるのは『インセプション』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ,CBE。
同じく英国空軍パイロット、コリンズを演じるのは『否定と肯定』のジャック・ロウデン。
防波堤で撤退作戦の指揮を取る海軍将校、ボルトン海軍中佐を演じるのは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『シンデレラ』(監督)の、レジェンド映画人サー・ケネス・ブラナー,CBE。
ジョージ達に救出される英国兵を演じるのは『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』の、後のオスカー俳優キリアン・マーフィー。
英国陸軍「高地連隊」の二等兵、アレックスを演じるのは大人気ボーイズグループ「ワン・ダイレクション」の元メンバー、ハリー・スタイルズ。
ファリアとコリンズが所属する小隊の指揮官の声を演じているのは『ダークナイト』トリロジーや『インセプション』の、レジェンド俳優サー・マイケル・ケイン,CBE。
音楽は『ダークナイト』トリロジーや『インターステラー』の、巨匠ハンス・ジマー。
👑受賞歴👑
第90回 アカデミー賞…録音賞/編集賞/録音編集賞!✨✨
第71回 英アカデミー賞…音響賞!
第43回 ロサンゼルス映画批評家協会賞…編集賞!
当代一の人気監督クリストファー・ノーランにとって初となる歴史劇。
描くのは1940年6月に起こった「ダンケルク撤退作戦」(通称「ダイナモ作戦」)。イギリスではかなり知られた作戦らしいのだが、私はこの映画で初めて知りました。へー。
この戦いのすぐ後、ナチス・ドイツによってフランスが占領されるのですね。そんでもって1944年、『プライベート・ライアン』(1998)でお馴染みの「ノルマンディー上陸作戦」が決行される、と。なるほどなるほど。
こういう戦争映画を観ると、なんとなく歴史に詳しくなって、なんか得した気分😊
ノーラン映画というと、どの作品も無駄〜にシリアスというか、みんな眉間に皺を寄せてウンウン唸っているようなものばかりで、「もっと気楽にやろうぜ…😅」と言いたくなるのだけれど、今回は歴史的な事実がそもそも超絶煮詰まったものであるため、このノーラン特有の辛気臭さが気にならない。作中の出来事のシリアスさとノーランの作風がピタッとマッチしていたので、超進退窮まった物語なのにも拘らず、むしろこれまでのノーラン作品の中で一番ストレスなく鑑賞出来たように思う。
「ノルマンディー上陸作戦」と対をなす「ダイナモ作戦」。面白いのはノルマンディーを描いた歴史的名作『プライベート・ライアン』と、ダンケルクを描いた本作もまた、対称的なものになっているということ。
『プライベート・ライアン』では登場人物の内面描写や血みどろでドラマチックな戦いに重きが置かれていたのに対して、本作では人物の内面描写や大規模な戦闘はほとんど描かれず、ただただダンケルクという地で起こったこととその結末が語られていく。
セリフが少なく、登場人物の性格や出自どころか名前すらもほとんどわからないような作品なのだが、その無機質な構造が戦争というシステムの巨大さや凶暴さ、そして何者でもない若者の人生を無作為に飲み込んでいく不条理さを強調しています。
戦場にはヒロイズムも綺麗事も存在していない。そこにあるのはただ、「故郷へ帰りたい」という想いだけ。
このあまりにもシンプルな戦場描写/人物描写が、千の言葉よりも雄弁に人間心理の本質を語っている。
本作は陸(防波堤)、海、空の三つの側面からダイナモ作戦を描き出している。
戦争映画において、一つの戦闘を複数の側面から描くというのはまぁ割と常套手段。
わかりやすい?例だと『機動戦士ガンダム』のクライマックスも、アムロvsシャア、カイ&ハヤトのモビルスーツ戦、ホワイトベースでの白兵戦が同時に描かれていた。
しかし、この映画の特殊性は、三面それぞれの時間の流れが違うところにある。
陸(防波堤)は1週間、海は1日、空は1時間と、停滞している状況では時間の流れが早くなり、高速で動いている状況では時間の流れが遅くなるという、相対性理論の基本原理を映画内の時間に落とし込んでいる。
これは常に「時間」を題材に映画を撮り続けているノーラン監督らしいアプローチではあるが、それを戦争という状況下に当て嵌めて作劇するというのは、まぁ見事という他ない。
「時間の操作」というと何やら大仰に聞こえるが、これはどの監督でも自然に行っていること。2時間の映画で2時間しか時間が進まないなんて、そんな映画の方が珍しい訳で。
しかし、ノーランの面白いのは、それを根掘り葉掘りほじくって映画を作っちゃうところ。とどのつまり、彼にとっての映画作りとは、時間をどこまでいじくりまわせるかの実験に他ならない。映画が進むにつれて物語がこんがらがって訳わからなくなるというのはノーラン作品の特徴だけど、これは映像を弄ることこそが彼にとっての主題であり、物語は二の次くらいに思っているからなんだろう。
その点、本作は時間を存分にいじくりまわしながらも、物語が最後まで破綻せず綺麗に纏まっている。
作劇の巧さという点においては、ノーラン史上最高傑作と言って良いのではないでしょうか!✨
まぁ正直言うと、大規模な戦闘場面は無く、ひたすら兵士が水責めにあっているという場面が続く映画なので、面白いか面白くないかでいえばそりゃ面白くはない😅
とはいえ、ダンケルクの絶望的な状況を観客に伝えることには成功しており、息が詰まるような鑑賞体験ができるという点においては、他の戦争映画以上のユニークさを持った作品である。
もしこれが2時間30分とか3時間とかのランタイムだったのならBoo👎と言いたくなったかもしれないけど、106分というちょうど良い時間に収めてくれていたから全然オッケー👍
ノーランのフィルモグラフィーの中では地味な作品だけど、むしろこういう映画にこそノーランの資質は活きるのではないでしょうか?グロいシーンも無いし、万人にお薦めできる作品です♪
クリストファー・ノーラン監督ならでは
"感じる"映画
戦争の体験談の細かな部分を映画化したかのような
ノーラン作品には全幅の信頼とまではいかない程度の感想でしたが、「インターステラー」は個人的に好きな作品でした。
前評判の高さや宣伝展開の巧みさもあって、かなり期待していたのですが正直、「よく分からん」というのが素直な感想でした。
DVDで何度も鑑賞したり、解説書や歴史書を紐解いて何が起きているのかをきちんと理解できればまた違うのかもしれませんが、誰の視点でどこに着地点を置いて映画を見るのか、最後まで定まらないまま、映画が終わってしまいました。
歴史上の事実を映画化した、ということらしいのですが、空軍パイロットの視点で見れば、燃料計が壊れてしまい、残りどのくらい飛べるかがわからないので、僚機に残量を知らせてもらっているうちに、僚機が撃墜され、いつエンジンが止まるか知れない不安の中で、それでも30万の兵が海岸に追い詰められたのを守るべく、果敢にドイツ空軍に挑んでいくことは、事実なのでしょうか?
空中戦で損傷したスピットファイヤー戦闘機が、海上に不時着するときには、キャノピーが開かず、あわやパイロットが溺れかけますが、間一髪脱出に成功、民間船に救出されます。これなど、いかにも映画的演出ですが、史実だったのでしょうか?
エンジンが停止した戦闘機で、空中戦を戦い、どうにか敵を撃破したらしい(背景が一切語られないので、想像するしかない)戦闘機を、砂浜に着陸させるときに、ランディングギアが降ろせずに、手動でキコキコやってどうにか着陸したこととか、みょうにリアルな描写ですが、歴史上の事実なのでしょうか?いかにも映画的演出に見えたのですが。
これらのエピソードは演出にしてはずいぶん地味で、事実であればどうやってこんな些末なことが語り継がれたのか。あやふやです。そんな細かいことがたくさん積み重なって、この映画は構成されています。
まるで、戦争の体験談を読み漁って、ダンケルクの生き証人たちの語りを一本の映画にからめとったような構成です。空と、海と、陸から。
どうやら英国人はこの逸話を子供の頃から英雄物語的に聞かされているから、みんな常識のようにここで何が起きたかを知っているということらしいです。
であれば、こんな突き放したような映画でも、何を語りたいかがきちんと理解できるのでしょうか、フランス人やイギリス人たちは。
映像の迫力は文句なしに凄いです。音のリアルさも、飛んでくる砲弾の恐怖も、IMAXに勝る臨場感は得られないでしょう。それでも、映画としては散漫で共感の薄い作品でした。
まぁ、もういっぺんくらい見てみたいとも思いましたが。
2017.9.11
後悔
生死を彷徨う混乱した状況を体験する
原題も邦題も同じで「ダンケルク」です。
「ダンケルク」は、フランスの大西洋に面した港街です。
登場人物にセリフで語らせるのではなく、映像で語らせるという演出が優れています。
・主人公がドイツのビラを拾い、イギリス兵はダンケルクに包囲され、投降するしかないという状況を語らせます。
・主人公がドイツ兵に銃撃を受けることで、ドイツ兵はダンケルク市内にまで、侵攻しているという状況を語らせます。
・イギリス兵はボルトアクションライフルなので、発射するたびにボルトを引いて弾を銃身に送り込まなければならず、連射はできません。
ドイツ兵は、発射速度は500-600発/分という突撃銃を使用しているので、連射できます。
イギリス兵は、ドイツ兵に対して、圧倒的に不利な状況を語らせます。
・主人公は、フランス軍の守る防衛線を超えて、走ってすぐにダンケルクの砂浜に到着することで、ドイツ軍がすぐ近くにまで迫っていることを語らせます。
・主人公が走る姿を大きく映し出すことで主人公であることを語らせます。
・イギリス兵に偽装したフランス兵は、何も話さないので、状況をしぐさで語らせます。
・救助したイギリス兵は、何も話さないので、状況をしぐさで語らせます。
・3機のスーパーマリン スピットファイアの編隊が、ムーンストーン号の上をダンケルクに向かい通過することで、同じ目的のために行動しているということを語らせます。
スーパーマリン・スピットファイアは、第二次世界大戦当初は量産化されていなくて、航続距離も短いことから、フランスに派遣されずに、ロンドンの防衛に当たっていました。
メッサーシュミットBf109も、航続距離が短いので、ロンドンまでは攻撃できませんした。
イギリスは、ハリケーンをフランスに派遣し、メッサーシュミットBf109と戦っていました。
ダンケルクで、初めて、スーパーマリン・スピットファイアは、メッサーシュミットBf109と交戦しました。
実話に基ずく、フィクションのストーリーで、伏線を張り、伏線を回収するので、すっきりとするストーリーです。
伏線に気が付き、回収できるかで、この映画への評価も別れます。
名言もあり、名言にどう感じるかで、この映画への評価も別れます。
戦争映画なので、人は死にますが、映倫区分は「G」でどなたでも鑑賞することが出来ます。
歴史に興味があり、第二次世界大戦に興味のある人には、お勧めの映画です。
CGは使用せずに、実際にスーパーマリン・スピットファイアやメッサーシュミットBf109等を飛行させて、撮影しているので、臨場感があります。
CGは使用せずに、ダンケルクの浜辺のシーンも大量のエキストラを動員し、撮影しているので、臨場感があります。
女性はほとんど登場せず、ロマンスの要素はありません。
上映時間は106分と短いですが、1週間、1日、1時間という時間が異なる3つのストーリーを防波堤、海、空という3つの視点から描かれるので、混乱させられますが、混乱した状況を体験させるという演出です。
誰一人として、状況を把握できない混乱した中で、皆が正しい行動をした結果、30万人を救出するという奇跡を起こしたということです。
歴史的な背景を知っていることを前提にストーリーは進みます。
歴史的な背景を理解していないと、ストーリーについていけない可能性があります。
「ダンケルク」について知らない人は、映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」を先に鑑賞すると理解しやすいです。
なぜ、イギリス軍とフランス軍がダンケルクに追い込まれ、救助を待つだけで、ドイツ軍と戦わなかったのは、ドイツ軍は、アレキサンダー大王がガウガメラで戦い、ペルシア王ダレイオスを敗走させ、勝利しのと同じ鉄床戦術を用い、少数のドイツ軍が多数のイギリス軍とフランス軍に武装を放棄させ、敗走させたからです。
鉄床戦術は、低機動で耐久力のある部隊が敵を引き付け、機動力の高い部隊が敵の側面や背後に回り込み、敵を攻撃し、敵を敗走させる戦術です。
ドイツ軍の低機動で耐久力のあるC軍集団は、マジノ線に侵攻し、マジノ線の要塞群に立てこもるフランス軍守備隊を釘づけにします。
ドイツ軍の機動力の高い装甲師団主力のA軍集団は、小型でガソリンエンジンを搭載したI号戦車、II号戦車で構成され、アルデンヌ森林地帯を抜け、ユンカースJu-87急降下爆撃機による正確な支援爆撃を受けて、ムーズ川を渡り、敵国のガソリンスタンドを補給に利用し、早い速度で進軍し、イギリス軍とフランス軍の背後に回り、攻撃することで、イギリス軍とフランス軍を総撤退させ、ダンケルクに達します。
ドイツ軍の機動力の高い空挺部隊は、防御陣地の後方に降下して、防御陣地を爆破し、混乱させ、機動力の低い歩兵主力のB軍集団が防御陣地を制圧し、ベルギーとオランダに侵攻します。
鉄床戦術については、映画「アレキサンダー」を鑑賞すると理解しやすいです。
物足りない
追い詰められたダンケルクの街から撤退する。民間人も加わる救出作戦。...
民主主義の勝利
(このレビューは、2017年9月に劇場鑑賞した直後に執筆したものです。感想は今でも変わりませんので、当時のまま、掲載させていただきます)
「ダークナイト」や「インターステラー」など、傑作を次々と生み出しているクリストファー・ノーラン監督が、実話をもとに新作を発表したというので、期待しながら、鑑賞に臨みましたが、期待を全く裏切ることのない、秀作でした。
題材となった「ダンケルクの戦い」ですが、これは、第二次世界大戦中、1940年5月から6月にかけて起こった戦いです。
別名、「ダンケルクの奇跡」とも呼ばれるこの歴史的事件は、当時、ドイツ軍の猛攻撃に、フランス・ダンケルクに追い詰められてしまった英・仏の兵士たち40万人を、駆逐艦のみならず、民間船も動員して、救出に向かわせ、実際に、多くの兵士が生還を果たすことができた、というものです。
私は、フィクション作品の場合は、予備知識はあまり仕入れずに鑑賞しますが、本作品のような歴史的に有名な実話を扱っている場合には、Wikipediaなどで、その内容を把握したうえで、鑑賞しています。
それは、実話に基づく作品は、どうなったのか、という結果よりも、その結果がどうやって導かれたのか、その間のドラマが見どころだと考えているからです。
本作品では、観客がダンケルクの救出劇を疑似体験できるように、工夫が凝らされています。それは、3つの視点で、物語を展開していることです。
すなわち──
1. 陸:ダンケルクの防波堤で、救出が成功するように、必死に行動する青年兵士。
2. 海:救出のため、民間船でダンケルクへ向かう、年老いた船長。
3. 空:ダンケルクへの攻撃を阻止するため、英軍戦闘機の操縦桿を握るパイロット。
これらが、交互に描かれることで、ダンケルクの戦いが立体感を保ちながら、観客に迫ってくるのです。
さらに、不安感をかき立てるような、BGMが、緊迫感を増幅させます。
また、台詞を最小限に抑えていたことも、一役買っていたように思います。
この映画は、反戦というよりも、民主主義の勝利を描きたかったのではないでしょうか。
救出に向かった船のうち、民間船は、船員も武器を持たない民間人であったわけで、かなり無謀とも言えるでしょう。
それでも、使命感を持って救出に向かったのは、ナチス・ドイツの独裁政権に立ち向かうということを国全体の方針で決めたのだから、一次的には撤退するけれど、連合軍が勝利を導くような行為であれば、積極的に行おうという国民の総意があったからではないかと思います。
これまでの戦争を題材とした映画とは、ひと味違った作品となっており、クリストファー・ノーラン監督の力量の高さを実感しました。
20世紀を著す戦争の時代映画
迫力溢れる映像と音楽で戦場を再現
本作は、リアリズム溢れる映像による圧倒的な臨場感で、観客に戦場を体感させてくれる極めて独創的で迫力十分の傑作戦争映画である。
本作は、第2次世界大戦で有名なダンケルクの戦いを描いているが、ドイツ軍が英仏連合軍40万人をダンケルクに追い詰めた程度の大雑把な説明だけで詳細説明は殆どない。冒頭、ダンケルクの海岸で只管救助を待つ40万人もの兵士達。その中に、主人公であるイギリス兵士トミー(フィオン・ホワイトヘッド)もいた。これから何が起きるのか、どうなるかは全く展開が読めない。当時の一般兵士がそうであったように、観客にも情報を与えない。ドイツ軍の顔も見えない。戦力もわからない。相手が分らない程に恐怖は高まるとう人間心理を巧みに利用した設定である。
物語は、防波堤(救助艇):一週間、海(民間船):一日、空(飛行機):一時間、という三ヶ所の異なる時間軸で進行していく。三ヶ所の出来事が巧みにシンクロしながら、ダイナミックに結実していく手法は見事であり、見応え十分。リアルな映像で、我々観客は戦場に放り込まれた感覚に陥る。民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)、イギリス空軍パイロット・ファリア(トム・ハーディ)の寡黙な生き様、活躍が奏功して、脱出を試みる主人公達の視点ばかりではなく、救出する側の視点もしっかりと描かれ、平面的ではなく、立体的で奥行きのある物語に仕上がっている。
救助艇からの救出を待った主人公達は、救助と沈没の繰り返しであり、修羅場の連続である。突然のドイツ軍の襲撃に主人公達は右往左往するばかり。しかし、それでもなお、彼らは、祖国への帰還を目指して、懸命に生きようとする。画面に大写しにされる、修羅場での彼らの必死の形相に、形振り構わず生きようとする彼らの想いが凝縮されている。
あくまで、カメラは主人公達をリアルに追いかけていくので、台詞は少なく、戦争ドキュメンタリーを観ているような緊迫感がある。時計の秒針音のような背景音が絶え間なく聞こえてくる。迫りくる時間を表現した音とも理解できるが、場面が切迫する程に、背景音は強まり、兵士達の高鳴る心臓の鼓動を象徴しているようでもある。
ラスト。救出作戦は、史実通りの結末を迎える。生き残った兵士たちに老人が呟く、生きてくれただけでいいんだよ、という台詞が本作の主題である“生きる”を示唆していて意義深い。本作は、戦争映画でありながら、“生きていることこそ尊いということ”を強く主張した作品である。
最前線にいるのは、いつも名もなき庶民
いきなり戦場に放り込まれる。
空から降ってくる降伏への呼びかけ。
そして突然背後から、空からの銃撃が迫りくる。
やっとの思いで逃げ込んだ先には、自分と同じ立場の40万人の兵士。広々とした空と海。
その場所とて安全ではない。否、同じ立場ではない。さりげなく所属部隊による差別がある。
赤十字の旗を掲げた船でさえ沈没。
そんな中での、生死をかけた行動。
やっと乗りこめた船でさえ…。
海が嫌いになりそうだ。
閉所恐怖症にもなりそうだ。
空が、こんなに美しくも怖いところだったとは。
映画の途中交わされる将校たちの会話。「3万助けられればいいと本部は言っている」と。
見捨てられた? 事実カレーにいた兵士は見捨てられたらしい(Wikiより)。
戦力を、どこでどう使うかによって戦争の勝ち負けが決まって、史実としてみれば、その判断は正しいのかもしれないが、
すでに、砂浜を、海をネズミのように右往左往する兵士にどっぷり感情移入している身にとっては…。
そんな中で再び交わされる会話。
「何が見える?」「祖国が」
ダンケルク・スピリット。
生き延びようとする、きれいごとではすまされない兵士の想い。
そして、危険にさらされながら、助けようと地獄に向かうもの。
あまりにもあっけなく死ぬもの。
引き潮・満ち潮。自然は容赦ない。
あと数十センチ。生死を分かつ。
試写会で鑑賞。普通の映画館で、これだけ映画の中に没入するなら、IMAXだったらどんな体験になるのだろう。
惨敗しての撤退。ひたすら逃げてきた人々に、盲目の老人が言う。「生きていりゃいいんだよ」
日本と違うなあ。
人間魚雷・特攻。本土決戦では竹やりでたたかわせようとした日本。
捕虜となるくらいなら、自爆テロででも、相手を駆逐するのが大和魂と強制した日本。
あなたが生きている、それが一番尊いことだ。
そんな思いを強くした。
☆ ☆ ☆
(蛇足の追記)
チャーチルの戦意高揚に使われたというレビューがあったけれど、
それは終わってからの政府の施策。意味づけ。
渦中にいた人たちは、助かろうという思いと、助けたいという思い、それだけ。
言葉巧みな人(この場合、耳障りの良いことを言う政治家)に騙されてはいけない。
ラストのトミー・アレックス・ピーター、それぞれの表情が、それぞれ印象に残る。
☆ ☆ ☆
(蛇足の追記2)
確かに、血の描写は激しくないけれどね…。
溺死しそうな描写とか、一難去ってまた一難。どこから何が来るかわからない。ぬれねずみのような姿…。充分リアリティあると思うが…。
戦争の実態も知らずに従軍させられた青年兵。
これは戦争の一場面を取り上げたのだろうが、災害に巻き込まれた人々にも見えて…。
助かると思っていた手段がダメになってしまった時の失望感。
希望の見える瞬間。
心が揺さぶられる。
でも、やはり災害と違って、戦争は人災。こんな思いは繰り返させたくないのだが。
☆ ☆ ☆
(蛇足の追記3)
CGに頼らず、実写にこだわって制作された本作。
トム・クルーズ様とこだわりの方向性が同じ。
手を組んだらどんな映画になるんだろうと思う。
けれど、組まないだろうなあ。
追い求めるエンタメの方向性は違う。
内向的なノーラン監督と、外交的なトム様。
知的に緻密さに強迫的なノーラン監督と、興奮・エモーションを追い求めるトム様。
ノーラン監督映画でのトム様を見たい気もするけれど。
キングとキングのぶつかり合い。水と油になりそう。
残念。
戦争における考え方
戦争をテーマにした作品。
ダンケルクという場所でイギリスとフランスの戦争が起きる中、40万人の兵士達が取り残されてしまった。そこから脱出する術があるのか?絶望して自ら命を絶ってしまう人、諦めてただ呆然と過ごす人、この作品の中で様々人の心理が描かれているなと感じた。
そんな中で、どこが焦点になるかと個人的な観点からいうと、戦争に行った兵士達は、もちろんの事ことだがそれよりもその戦争に巻き込まれた一般の人々が一番かなと思った。
戦争に参加した兵士達は、自分達がまともな精神状態でない中で素面を保とうするけど、自分が何をしたのか、何をするべきか?が分からなくなるくらい追い詰められているんだなと思った。
そんな兵士によって一般の人の命が犠牲になってもその人の事を責めれず、これは戦争のせいだと耐えるしかない一般の人の姿がとても勇ましいと感じた。
状況によって人の心理は、幾分に変化する。
そんな中でそれを受け入れるだけの心が自分には、あるのか?と問われる気がした。
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