「「生への執着」に絞った、戦争ドラマのない戦争映画。」ダンケルク すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「生への執着」に絞った、戦争ドラマのない戦争映画。
◯作品全体
自分の頭の中にある戦争映画とは、少し違う感覚の映画だった。
映画において戦争ドラマは登場人物が気の合う・合わないを抜きにして、軍隊の規律によって強制的に同じ空間いるのが常だ。その中で衝突したり、理解しあったりすることでドラマが生まれるわけだが、本作にはそうした戦争ドラマコミュニティはほぼ存在しない。
陸を舞台にしたトミーの物語は、一貫して生き残るための脱出口を探し続ける。そこに生身のドイツ兵は描かれず、立ちはだかるのは砲弾と階級や部隊に縛られたイギリス兵だ。後にフランス兵だとわかるギブソンとは長く時間を共にするが、会話らしい会話を一切していないのが興味深い。それによって兵士同士のドラマではなく、生き残ることへの泥臭い執着に焦点が絞られていた。
そして陸から溢れる生存への執着に呼応するように、空からは生存への脱出口を作り出す姿が描かれる。計器が壊れても戦う姿は陸の兵士とは対比的だが、墜落してしまえば生き残るためにもがかなければならないのは陸の兵士と同様だ。
それぞれがもがき、生き残ることで、イギリスという国家も生き残る。この部分は海での物語で遊覧船の船長が「国が滅べば帰る場所はなくなる」と話していたが、ミクロな視点でもマクロな視点でも「生き残るために」に一貫していた作品だった。
生き残るため最善を尽くすことに、多くの言葉はいらない。「ドラマ」よりも「執着」を描いた本作は、戦争映画でありながら戦争ドラマを描かない独特な作品だった。
◯カメラワークとか
・ポジフィルムっぽいグラデーションのかかった空、海の青が印象的だった。
・序盤で街を抜けて海岸にやってきたトミーのカットが良かった。奥に色彩豊かな街があって、手前には鈍色のコンテナが並ぶ。色のコントラストがかっこいい。
序盤はかっこいいレイアウトが多かったけど、後半はアクションが多くて撮り方も普通のアクション映画だったのが少し残念。ラストの燃料が切れた戦闘機のシーンも綺麗ではあったけれど、ちょっとフィクション臭さが強かった。
◯その他
・セリフがほとんどないっていう試みは面白いんだけど、序盤でトミーたちが担架を運ぶシーンで乗り遅れそうなのに「どいてくれ!待ってくれ!」とか言わないの意味わかんないし、ギブソンはフランス人だから喋らないっていう意味付けみたいなものをトミーにも与えてやって良かったんじゃないかなって思った。