「Take Me Home, Country Boats. 時間の相対性を、戦火の三面鏡が映し出す。」ダンケルク たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Take Me Home, Country Boats. 時間の相対性を、戦火の三面鏡が映し出す。
1940年に行われた「ダンケルク撤退作戦」を、異なる三つの側面から描き出した戦争映画。
監督/脚本/製作は「ダークナイト・トリロジー」や『インセプション』のクリストファー・ノーラン。
ダンケルクへと向かう小型船舶に乗り込んだ青年ジョージを演じるのは、『ベルファスト71』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のバリー・コーガン。
戦闘機スピットファイアでダンケルクの撤退作戦をサポートする英国空軍パイロット、ファリアを演じるのは『インセプション』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ,CBE。
同じく英国空軍パイロット、コリンズを演じるのは『否定と肯定』のジャック・ロウデン。
防波堤で撤退作戦の指揮を取る海軍将校、ボルトン海軍中佐を演じるのは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『シンデレラ』の、レジェンド映画人サー・ケネス・ブラナー,CBE。
ジョージ達に救出される英国兵を演じるのは「ダークナイト・トリロジー」や『インセプション』のキリアン・マーフィー。
英国陸軍「高地連隊」の二等兵、アレックスを演じるのは大人気ボーイズグループ「ワン・ダイレクション」の元メンバー、ハリー・スタイルズ。
ファリアとコリンズが所属する小隊の指揮官の声を演じているのは「ダークナイト・トリロジー」『インセプション』の、レジェンド俳優サー・マイケル・ケイン,CBE。
音楽は「ダークナイト・トリロジー」や『インターステラー』の、巨匠ハンス・ジマー。
当代一の人気監督クリストファー・ノーランにとって初となる歴史劇。
描くのは1940年6月に起こった「ダンケルク撤退作戦」(通称「ダイナモ作戦」)。イギリスではかなり知られた作戦らしいのだが、私はこの映画を観て初めてこの戦いを知りました。へー。
この戦いのすぐ後、ナチス・ドイツによってフランスが占領されるのですね。そんでもって1944年、『プライベート・ライアン』でお馴染みの「ノルマンディー上陸作戦」が決行される、と。なるほどなるほど。
こういう戦争映画を観ると、なんとなく歴史に詳しくなって、なんか得した気分😊
ノーラン映画というと、どの作品も無駄〜にシリアスというか、みんな眉間に皺を寄せてウンウン唸っているようなものばかりで、「もっと気楽にやろうぜ…😅」と言いたくなるのだけれど、今回は歴史的な事実がそもそも超絶煮詰まったものであるため、このノーラン特有の辛気臭さが気にならない。作中の出来事のシリアスさとノーランの作風がピタッとマッチしていたので、超進退窮まった物語なのにも拘らず、むしろこれまでのノーラン作品の中で一番ストレスなく鑑賞出来たように思う。
「ノルマンディー上陸作戦」と対をなす「ダイナモ作戦」。面白いのはノルマンディーを描いた歴史的名作『プライベート・ライアン』と、ダンケルクを描いた本作もまた、対称的なものになっているということ。
『プライベート・ライアン』では登場人物の内面描写や血みどろでドラマチックな戦いに重きが置かれていたのに対して、本作では人物の内面描写や大規模な戦闘はほとんど描かれず、ただただダンケルクという地で起こったこととその結末が語られていく。
セリフも少なく、登場人物の性格や出自どころか名前すらもほとんどわからないような作品なのだが、その無機質な構造が戦争というシステムの巨大さや凶暴さ、そして何者でもない若者の人生を無作為に飲み込んでいく不条理さを強調しています。
戦場にはヒロイズムも綺麗事も存在していない。そこにあるのはただ、「故郷へ帰りたい」という想いだけ。
このあまりにもシンプルな戦場描写/人物描写が、千の言葉よりも雄弁に人間心理の本質を語っている。
本作は陸(防波堤)、海、空の三つの側面からダイナモ作戦を描き出している。
戦争映画において、一つの戦闘を複数の側面から描くというのはまぁ割と常套手段。
わかりやすい?例だと『機動戦士ガンダム』のクライマックスも、アムロvsシャア、カイ&ハヤトのモビルスーツ戦、ホワイトベースでの白兵戦が同時に描かれていた。
しかし、この映画の特殊性は、三面それぞれの時間の流れが違うところにある。
陸(防波堤)は1週間、海は1日、空は1時間と、停滞している状況では時間の流れが早くなり、高速で動いている状況では時間の流れが遅くなるという、相対性理論の基本原理を映画内の時間に落とし込んでいる。
これは常に「時間」を題材に映画を撮り続けているノーラン監督らしいアプローチではあるが、それを戦争という状況下に当て嵌めて作劇するというのは、まぁ見事という他ない。
「時間の操作」というと何やら大仰に聞こえるが、これはどの監督でも自然に行っていること。2時間の映画で2時間しか時間が進まないなんて、そんな映画の方が珍しい訳で。
しかし、ノーランの面白いところは、それを根掘り葉掘りほじくって映画を作っちゃうところ。
つまり、彼にとっての映画作りとは、時間をどこまでいじくりまわせるかの実験に他ならない。
映画が進むにつれて物語がこんがらがって訳わからなくなるというのはノーラン作品の特徴だけど、これは映像を弄ることこそが彼にとっての主題であり、物語は二の次くらいに思っているからなんだろう。
その点、本作は時間を存分にいじくりまわしながらも、物語が最後まで破綻せず綺麗に纏まっている。
作劇の巧さという点においては、ノーラン史上最高傑作と言って良いのではないでしょうか!✨
まぁ正直言うと、大規模な戦闘場面は無く、ひたすら兵士が水責めにあっているという場面が続く映画なので、面白いか面白くないかでいえばそりゃ面白くはない😅
とはいえ、ダンケルクの絶望的な状況を観客に伝えることには成功しており、息が詰まるような鑑賞体験ができるという点においては、他の戦争映画以上のユニークさを持った作品である。
もしこれが2時間30分とか3時間とかのランタイムだったのならBoo👎と言いたくなったかもしれないけど、106分というちょうど良い時間に収めてくれていたから全然オッケー👍
ノーランのフィルモグラフィーの中では地味な作品だけど、むしろこういう映画にこそノーランの資質は活きるのではないでしょうか?グロいシーンも無いし、万人にお薦めできる作品です♪
たなかなかなかさん
「 メメント 」・「 インセプション 」・本作・「 TENET 」・「 オッペンハイマー 」しか観ていなくて、劇場鑑賞は「 オッペンハイマー 」1本だけで、他4本全てテレビ鑑賞という 😅
どのピースをどう見せるか、凄い監督ですよね。
たなかなかなかさん
『 2時間の映画で2時間しか進まない映画なんて、そんな映画の方が珍しい … 』、思わず笑っちゃいましたが、確かに仰る通りですね 👀
こちらも軽快なレビューですね ✨