「言葉を失うほど胸を抉るスペクタクル」ダンケルク 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉を失うほど胸を抉るスペクタクル
とにかく凄かった。凄すぎて素晴らしかった。映画はセリフ以上に多くを語っていて、もはや言葉なんて不要になっていたし、この映画の感想を書こうにも、やっぱり言葉なんか使っては何を語れようかという感じ。
もちろん実際に戦争に行ったことはないし、戦場を観たこともない私だけれど、この映画を観ている間、まさしく目の前に戦場が広がっているような気分になった。映画であるということを一瞬忘れそうになるほど、写実的な戦争の姿がそこにはあって、ダンケルクに残る者、ダンケルクから脱出する者、ダンケルクへ向かう者、そして戦う者、逃げる者、救う者、救われる者、犠牲となる者・・・など、戦場にいるそれぞれの立場の人たちの、それぞれのダンケルク、それぞれの戦争が、ありありと伝わってくる。特に日本人である私などは、戦争というとついつい被害者意識に思いが傾きがちだが(被害者としての声を世界に発することの出来る国であるという点ではそれも意義深いことだと思う)、この作品は、一人の人間の目で見る戦争ではなく、多くの人それぞれの目で見る戦争が一つの映画にまとまったというような感じで、より多面的な内容になっているし、様々な角度から戦争を描き、その上で、観客が映画から何を見て何を感じるかを委ねている、そんな作品のような気がした。だからこそ、琴線に触れる作品だったように思う。クリストファー・ノーランというと、その映像のスペクタクルやスケールの大きさが言及されやすいが、そういった幾重にも重なったストーリーを捌く手腕と巧みなシーンの切り取りにこそクリストファー・ノーランのセンスを感じた次第だった。
映画を観ている間、ずっと息が詰まるような思いで全身に力が入り、コンセッションで買ったアイスティーを飲むことも忘れてスクリーンに見入っていたのだが、そんな緊迫感漂う作品の中で、マーク・ライランスの存在になんだかほっとするような気持ちになった。彼の演技というかその存在から、人情味というか人の温かみを感じて、けれどもその温かみの中に苦みを効かせた素晴らしい演技と存在感で、彼がいてくれることで、つい力んでしまっていた体をふと休めることが出来たような気がした。
脳天を撃ち抜かれるほどガツンと来る映画で、本当に良かったんだけど、それをうまく言葉にできなくて悔しいです。