「凄惨さのリアルを追求せずとも怖くて美しい戦争映画」ダンケルク yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
凄惨さのリアルを追求せずとも怖くて美しい戦争映画
クリストファー・ノーラン監督作、しかも初の実話ベースという事で、かなり期待していた作品。IMAXで2回鑑賞しました。
「ハクソー・リッジ」と同様に、”殺す”よりも”救う”ことにフォーカスした戦争映画です。が、ハクソー・リッジと大きく異なる点は、残酷な描写をせずにリアルを追求したところ。ノーランが求めたリアルとは、CGを極力使わず本物の当時の戦闘機を飛ばすなどして撮影することでした。実際には大量の戦闘機が闘っていただろう空には、現代に遺された実物の戦闘機が2、3台しか飛んでいないのです。ハクソー・リッジのように血塗れどころかグチャグチャの負傷兵や死骸も映りません。むしろ、本物の戦闘機はもちろん、砂浜と波の花が白く輝くダンケルクの海岸や、登場人物の美男子達と、美しいものばかりが目に入ってきます。
ところが、凄惨さのリアルを求めずとも、この映画ちゃんと怖いんです。主人公と完全に同化して、砂浜で、桟橋で、駆逐艦で、海で、難破船で…度重なる敵の攻撃から逃れなければならず、ハラハラが止まらず息苦しい!戦争を擬似体験させられるような感覚すらあります。
登場人物のセリフもかなり少なく絞られています。そこがまた戦争の息苦しさを感じさせるのですが、それと同時に最小限の会話に胸が熱くさせられる、とてもスマートな映画でもあると思います。特に、ダンケルク海岸での救出へと徴用された小型旅客船でのやりとりにはグッときました。言葉の無い表情だけで語り合うシーンでも泣かせるのだから本当に凄い。無論、海だけでなく空でも陸でもとても紳士的な表現が印象に残ります。
そして、別々の時間軸で進んでいる陸海空の出来事が交わり合った時、後半へ行くほど分かっていくのですが、その度にジワジワ〜と胸の奥が熱くなっていくし、映画としてとても良く出来ていて面白い!
なんとか祖国に帰還した若き兵士逹を、勇気ある撤退として讃える一世代前の老人逹の言葉に、最後の最後でまた胸熱になる、若き巨匠クリストファー・ノーランのインテリジェンスとこだわりが爆発した素晴らしい映画だと思います。
あと暖かい紅茶が飲みたくなりました。
IMAXで観るのがお勧めです!