「クリストファー・ノーランの全く新しい映画創造に立ち会えた幸福感」ダンケルク Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
クリストファー・ノーランの全く新しい映画創造に立ち会えた幸福感
今まで全く見たことのない全く新しいタイプの映画芸術であり、その創造主ノーラン監督の開拓的挑戦の成功を同時代で体感できる幸せを感じる至福の106分であった。
冒頭の激しい銃撃戦から、映像及び音には、最後まで半端ではない臨場感が有り、しかも、舞台も、陸だけでなく海と空とで並行し、戦場の緊迫感、怖さ、恐ろしさを、重層するかたちで、疑似体験させられた。そのパワーと迫力に圧倒されるとともに、背景となる空や海や浜の映像の壮絶的美しさと、いとも簡単に死に至る理不尽さに、魂を揺さぶられた。
これ程、会話が少ない映画は今まであっただろうか?説明がこれ程無い映画は、かつてあっただろうか?しかし、だからこそ、戦争そのものを、その凝縮した本質を嫌という程感じさせられたし、人物のバックグランドを、色々想像して楽しむこともできた。そう、観客の感じ取る力や想像する力を強く信じて製作された映画とも思われた。
史実に基づくこと、ひいてはこの戦いの本質的リアリティの追求を重視する姿勢には、大きな敬意を表さずには得られない。フランス兵救助の後回しや階級差別もたんたんと描かれている。善人も悪人もいるが、命はそれとは無関係に奪われるし、最初からこれ程多くの救助ができると計画された訳でも無い。ただしっかりとした事実に基づき、何人かの英国の先人の決意及び行動に対して、大いなる誇りを持っているのは強く感じられた。そしてやはり、自分的にも、デモクラシーに基づいた団結は、独裁政治のそれに、綺麗事でなく現実的に勝てると、強く思わされた。そういう意味で、言葉でこそ表出していないが、平和が非現実的にも思える今だからこそのメッセージ性も強く感じさせられた。
世界中のテロや独裁を嫌悪するが声は荒立てない、船長の息子ピーターの様に、思いやりと勇気を内に秘めた多くの人々のために、こんな凄いものを創ってくれて有難う、ノーラン監督。