「臨場」ダンケルク あだじぇっとさんの映画レビュー(感想・評価)
臨場
1940年5月、ナチス対英仏の開戦直後に英仏精鋭軍は大敗を喫する。
負け戦の果てに追い詰められたダンケルクから、英軍はドーバーを渡る撤退作戦を実行。
その様子を、撤退する兵隊の1週間、軍の要請に応えて救援に向かう遊覧船の1日、援護に向かうスピットファイアの1時間という3つの時間軸で見せる作品。
撃たれ、沈められ、命までもっていかれる襲撃の恐怖。
目の前で同胞が虫けらのように死んでいく恐怖。
その恐怖に打ち勝つ精神と冷静な計算。
言葉は最小限と思えるほど少ないが、映像と音で、十二分にその時の体験を伝えてくる。
経験の乏しい若い兵隊たちのシーンはとても苦しい。
時に感情的になり、エゴをむき出しにしてくる。
(( 1DのH・スタイルズが起用されているが、ただの一兵卒。兵隊という没個性が要求される集団にあって、あの顔が、観客にとって目印になる、という程度の。))
対象的に救援に向かう遊覧船をあやつるライランスは老練だ。
無口で無骨ながら優しい人物だが、戦闘機に詳しく胆力も強い。
死の淵まで追い詰められた恐怖で、感情的で利己的になっている兵士に決して無理をさせず、でも自分の意思は貫く。
長男を戦争で失っていると設定だが、たぶん自分自身も従軍経験があるのだろう、という同行者の意見に「なぜダンケルクに向かったのか?」が腑に落ちる。
凄みがあるのが、スピットファイアのパイロット。
僚機の景気故障のために、つねに帰路の燃料を気にしながら飛んでいるのだが、目の前で大量の兵士を乗せた僚艦に敵機が迫るのを見て、ガス欠をおそれずに追走に入る。
その時には「伸るか反るか」に見えるのだけれど、だれもいない敵陣内の砂浜に不時着させ捕虜になるシーンまで見ると、あの時に、そこまで計算したんだとわかる。
あれが、軍人の決断力というやつでしょうか。
実際にダイナモ作戦を経験した人たち(ほぼ90代)がプレミアに呼ばれたそうで、映像はおどろくほど事実に忠実、爆撃音はあれほど大きくなかったという感想だったらしい。
飢えや渇き、水の冷たさ、砂の不快さなどは客席で体感することはないが、その部分を音で補ったのだろうか。
素晴らしい音だったし、怖かった。
さて、 imdb では 8.4/10のスコアだが 映画.com の反応は3.7/5.0 とやや熱量に乏しい。
米国にはイランやアフガニスタンなど最近の従軍経験者が多い。その家族や友人も含めると、この映画を「わがことのように」体感する観客が多かったのではないだろうか?
それがいいとか悪いとかいう話ではないが、作戦に至る経過や成功の理由を知って観るのはずいぶん理解の助けになる。
session22 2017.9.14(木)放送分の音声配信も、よかった。