「IMAXで観ていない評論はホンモノではない」ダンケルク Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
IMAXで観ていない評論はホンモノではない
すごい。圧倒的な映像力。こんなのアリか。参った・・・これはクリストファー・ノーランの最高傑作である。年内、これを超える作品が出ないとも限らないが、"アカデミー賞"の呼び声も高い。
IMAX70mm(1.43対1)で撮影された、超弩級の画力は、解像力も描写力もケタ違い。物量、人海戦術で構成しながらも、ムダなカットが一切ない。息つくヒマもなく106分間、金縛り状態になる。
常識を覆す要素をつめ込みながらも、ノーランは、映像作家として実にオーソドックスな正攻法で、観客を究極の臨場感へ飲み込んでいく。
第二次世界大戦下、侵攻したドイツ軍にフランス北部のダンケルクへと追い詰められた、英仏連合軍を描く。40万人が海岸へと押され、陸・海・空から攻め立てられる。ドーバー海峡を挟んで、祖国イギリスだが、英軍は来たる本土決戦に備え、軍本体を温存しているため、救出は遅々として進まない。
全編にわたり、セリフがほとんどない。映像だけで各々が置かれた状況が語られ、群像劇として見事に成立している。
かのヒッチコックは、"セリフのみで構成されるものは演劇。映画は、映像だけで語るもの"と定義し、"できるかぎりセリフにたよらずに、視覚的なものだけで勝負することが重要だ"と語った。その点、本作はまさしく"ホンモノの映画"なのである。
また本作には主人公もいない。トム・ハーディ、キリアン・マーフィ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、そして"ワン・ダイレクション"のハリー・スタイルズなど、スター俳優が、その他大勢のひとりを演じている。
ほとんどCGを使わず、人も船も戦闘機も実物を使い、ぜいたくなIMAX撮影ゆえに、制作費も100億円とケタ違いだが、すでに世界興収は500億円を超えている(公開6週間で)。
最新のVFX映像は、例えば、戦場に展開する数万の軍隊さえもCGで描けてしまう。しかし大勢のエキストラとの大きな違いは、軍人ひとりひとりの演技である。当然リアクションは百人百様である。例えば、上空から戦闘機が近づいてきたとき、爆弾が投下されたとき、撮影後にCGで描かれる爆発や破壊にあらかじめ身構えたり、ビクッとするのは絶対に不可能なのだ。
さらに、「ダンケルク」がいわゆる"戦争映画"と違うのは、軍の撤退を描いていること。完全な、"負け試合"なのだ。
戦争映画やミリタリー志向の作品は、たいてい主役またはその所属する国が勝利したり、勇猛果敢に攻撃する。必ずヒロイズム(英雄主義)を持ち合わせているのだ。いくら反戦をうたい、戦場を過激にリアルに描いたとしても、ストーリーが真実味を得られない。そして真の反戦映画にはなりえない理由はそこにある。
半年後には間違いなく、UHD Blu-rayのレファレンスソフトになるだろうが、70mm IMAXの画角と映像・音響で体験することができるのは、いまこの瞬間だけである。むろんHuluやNetflix、レンタルビデオで本作を観ても別物になる。だからこそIMAXシアターで観ておくべきだ。
個人的には、今年のナンバーワン映画ではないが、こんなに凄い映画はなかなかない。もし本作がアカデミー賞を獲ったとしても文句はない。そんな作品である。
(2017/9/9 /TOHOシネマズ新宿/IMAX70mm/字幕:アンゼたかし)