「コングは、獰猛さをアップしつつも、やっぱり僕らの知っているキングコングでした。」キングコング 髑髏島の巨神 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
コングは、獰猛さをアップしつつも、やっぱり僕らの知っているキングコングでした。
2020年に公開が発表されたハリウッド版「キングコング対ゴジラ」に向けたプロローグとなるような作品作りとなっていました。エンドロール後には、ゴジラ登場に繋がる重要シーンがあるため。最後までお席を立たぬように。
時代設定が1973年、ベトナム戦争が終結した時点においたことがポイントです。当時は偵察衛星も打ち上げられていて、ある程度の解像度で、地球の隅々の映像が衛星を通じて入手できるようになったのです。もしかしたら、地球上に我々の知らない神秘的な場所があるかもしれないということが信じられる、最後の時代ともいえるでしょう。これが現代の偵察衛星の解像度だと、あっという間にネタバレとなってしまい、作品が成立しなくなってしまいます。かといって、本作のプロローグで描かれている太平洋戦争末期の1944年でのコングと戦場に取り残された日米の兵士が遭遇する時代では、コングの存在を伝える術がなく、その後の展開に繋げるのは困難だったでしょう。
衛星からの映像で、厚い雲のベールで覆われて、これまで存在すら知られていなかった南太平洋の“スカル・アイランド”が発見されます。早速島への学術調査を目的とした探検隊が組まれ、一行はヘリコプター部隊長パッカード大佐(S・L・ジャクソン)が指揮するヘリコプター部隊に分乗して、島に向かうことになります。
だが、探検隊に表向きとは違う本当の目的があったのです。メンバーのなかには極秘に巨大未確認生物(UMA)の調査機関員も潜り込んでいました。彼らは衛星からの映像から、島には何らかの巨大未確認生物が存在していることを掴んでいたわけです。“巨大未確認生物”という呼称は、ゴジラの別名でもあったわけで、この時点から既にゴジラとの関連を暗示していたわけです。
そのため島に到着するなり、いきなり爆弾を大量に投下して、巨大未確認生物を炙り出す挑発行動を展開したのでした。
しかし、突如ヘリコプター部隊は、巨大なゴリラの攻撃を受けて、全機墜落の憂き目に。この身長31メートルの巨大なゴリラこそ、キングコングでした。予告編だけでは、意味なく凶暴と思われたかもしれません。でも現地民からコングは“神”と崇められていて、島の平和を乱す存在と戦っていたのでした。だから探検隊の傍若無人な爆弾投下に怒ったのでした。このパッカード大佐率いるヘリ部隊とコングの派手な戦闘描写は「地獄の黙示録」の戦闘シーンを思い出させてくれました。
ここからの筋書きで疑問なのは、生き残ったパッカード大佐の判断。48時間後にはピックアップ地点に到着して、救出部隊と遭遇しなくてはいけないのに、部下をコングに殺された復讐に執着するあまりに、大きく迂回してまでコングと戦う武器を求めて墜落したヘリまで向かうことこだわったのです。しかし、その場所は巨大生物たちの巣窟でした。そんな危険な場所へ、行き残った民間人も引き連れて向かうことは、軍人としてあるまじき行為です。パッカード大佐の執着のなかにベトナム戦争の狂気の残存を見る思いがしました。
案の定様々な、巨大生物の襲撃を受けて、物語は『ジュラシック・パーク』状態に(監督の少年時代には『ジュラシック・パーク』のファンだったそうです。)極めつけは、島のラスボスといえそうな髑髏(どくろ)のような顔を持つオオトカゲ怪獣の登場。このキャラは、日本アニメの“カオナシ”からインスパイアされているそうです。そしてこの怪獣とゴジラの間には、かなりの因縁があって、タイミング良く登場したコングと髑髏怪獣とド迫力なバトルが繰り広げられることが本作のハイライトとなりました。この対決シーンですが、髑髏怪獣の体型がゴジラと似ているため、次作を暗示した戦いとも言えなくはないでしょう。
髑髏怪獣のほうがやばいのに、それでもコングに復讐しようとするパッカード大佐は普通じゃないですね。…というかシナリオの都合上、そうせずにはいられなかったような設定となっているともいえそうです(^^ゞ
本作にはあまり世界観や哲学は感じられないかもしれません。それでも巨大な怪獣同士が組みうつインパクトは、怪獣映画で育ってきた私の中の童心をくすぐりのにあまりあります。ましてや現代の映像技術でアップデートされたうえに、神秘的なロケ地や巨大な骨、ヘリの残骸など、徹底的にCGを廃して、現物にこだわった本物感が繰り出す迫力は見応えたっぷりです。
そして本作でもコングとは、自然の力を表す存在として君臨し、怒らせると恐ろしく、残酷であるけど、高貴で、人類にとって必要なものでもある。本作の隠れたメッセージとしては、コング作品で連綿として語られてきた自然の力に対し、人は謙虚な気持ちになるべきだということではなかったでしょうか。
本作でも美女には優しい一面は健在。美しい女性と視線を合わせるとき、コングは思わず涙ぐみます。本作で凶暴に見えたコングは、やっぱり僕らの知っているキングコングでした。