「ツインズ・ギャングスター」レジェンド 狂気の美学 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ツインズ・ギャングスター
どの国、どの時代にもいる“ギャングスター”。
多くの犯罪に手を染めながらも、その生きざまは“レジェンド”と化し、憧れすら抱く。
このイギリスのギャングも。
貧しい生まれ。アマチュアボクシングを始める。
やがて犯罪の世界へ。クラブのオーナーとしても名を轟かす。
尊敬と畏怖を集め、イーストエンド・オブ・ロンドン随一のギャングスターと呼ばれた“彼ら”。
レジナルドとロナルド。双子のクレイ兄弟。
ギャングやマフィアのファミリーはよくあるが、双子というのは珍しい。実在の人物なのだから、事実は小説より奇なり。
双子は見た目も性格も考えている事すら似ると言うが、二人はそれぞれ個性的。
兄、通称“レジー”。精悍で腕っぷしも強い“漢”。ビジネスの才あり。
弟、通称“ロニー”。暴れん坊の問題児。精神がちと異常。
見た目も眼鏡の有無、髪型や体格なども微妙に違う。
レジーはノーマルなのに対し、ロニーは同性愛者。
双子で一見似ていても、微妙な違いや個性。
トム・ハーディが一人二役で、雰囲気も性格もメリハリしっかり付けた巧みな演じ分け。お見事の一言に尽きる。
これまた見事な合成技術によるトム・ハーディ×トム・ハーディは、圧巻であり、ド迫力であり、ユーモラスでもある。
出所してきたレジーがクラブの経営を傾かせたロニーと衝突。口論が取っ組み合いへ。
ギャングスター同士のガチンコバトルというより、兄弟喧嘩。緊張感より滑稽で何故か笑えてもくる。
軽やかな選曲がナイス。
洒落たセンスや本格ギャングムービーの雰囲気。警察との因縁、ギャング同士の抗争、兄弟の絆、兄弟各々のドラマや末路…。
『L.A.コンフィデンシャル』(脚本)や『ペイバック』(監督)など、ブライアン・ヘルゲランドは裏社会に手腕が光る。
固い絆で結ばれていたクレイ兄弟だったが、不協和音が。
原因は、レジーが部下の妹フランシスと恋仲に。
ギャングを嫌うフランシス。レジーに足を洗うよう勧める。
そんなフランシスを嫌うロニー。
フランシスもロニーを嫌う。
フランシスを愛するが、兄弟としてロニーも愛するレジー。
兄弟愛と男女愛絡む複雑な三角関係。
やがてレジーとフランシスは結婚。兄弟の仲はさらに深刻に…なると思いきや、違った悲劇へ。
俺はギャングじゃない、とレジー。
が、ギャングの世界から抜け出せない。ギャングの仕事や争いや逮捕も一度や二度ではない。
俺はギャングスターだ、とロニー。
フランシス含めた関係や生き方で度々衝突するも、結局兄弟の絆は切れない。
結婚しても、孤独を募らせるフランシス。薬物に手を伸ばす。
夫婦仲も悪化。遂にはレジーはフランシスに手を上げてしまう。
そしてフランシスは…。
双子のギャングスターとして名を轟かせ、その世界に君臨した。
栄光からの破滅や転落もあっという間だった。
愛する人との死別。
殺人。逮捕。
レジーは約30年服役。出所後、心臓発作で死去。
ロニーも逮捕され、精神病院へ。病死。
犯罪と罪の重さから自業自得かもしれないが、哀れでもある。
恥ずかしながらクレイ兄弟の事は初めて知った。
名だたる歴史上の名ギャングたち同様、生きざまや最期に至るまで脳裏に刻まれた。
犯罪者を崇めてはいけない。が、ツインズ・ギャングスターはレジェンドだった。