「逃げてばかりの中途半端なバレエ物語」ポリーナ、私を踊る 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
逃げてばかりの中途半端なバレエ物語
ふと、私はこの映画に何を望んでいたのか?ということを考えてしまった。もしかしたら、バレエにおけるスポ根的なドラマを勝手に期待していたのかもしれない。そういう意味では、決して期待通りの作品ではなかった。しかしそれは、作品をこき下ろす理由にはならない。ではこの映画は何を描いたか?について思いめぐらせてみるのだが、そこでも私には今ひとつ明確なヴィジョンが感じ取れない。う~む。
ポリーナは地元のバレエ教室で基礎を習い、そこからボリショイバレエスクールで古典を習い、ジュリエット・ビノシュ演じるダンサーの指導の下コンテンポラリーに触れ、その後より即興的なダンスへと形を変えながら、自分の踊りを探求していく。その上での、ポリーナ自身の成長が大きく翼を広げていく様子を描こうとしたのかもしれない、とは思う。しかし段階を経ながらポリーナが様式を違うダンスを取り入れダンスのバリエーションと表現力を足していくというその実感が、受け手として私にはあまり伝わって来なかっただけでなく、その場所やステージを変えていくきっかけも、ポリーナがそれぞれのジャンルのダンスを究め納得して次のステージへ進んでいるというよりも、それぞれの場所で納得がいかなくてまるで逃げるかのようにして場所を変えているように私の目には映った。なんというか、ポリーナにバレエへの情熱を感じ得なかったというのが、この映画に身が入らなかった大きな理由だと思う。才能が有るらしいことは伝わるし、休日も返上して練習をする様子も見えるが、ボリショイでの経験も、コンテンポラリーの経験も中途半端なまま逃げるように場所を変えて、それがポリーナにとって身になるバレエだったのか?と私はやけに冷静な気分にさせられた。
要するに、映画のヒロインとしてポリーナは少々未熟すぎるのだと思う。若くて威勢のいい未熟者の物語も悪くはないが、そんな映画はもはや飽和状態であるし、そもそもポリーナには威勢の良さも感じなければバレエへの情熱も感じにくい。彼女が物語を通じて経験することが、バレエとして身になっていく感覚も実に乏しいため、そんな彼女が到達した最後のダンスにそうそう簡単には感動などできるはずもなかった。