「疎かにした愛の報復。そして修復のための破壊。」雨の日は会えない、晴れた日は君を想う 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
疎かにした愛の報復。そして修復のための破壊。
妻を交通事故で亡くし、そのやり場のない感情をなぜか商品が出てこなかった自動販売機のカスタマーセンターへの苦情の手紙に認(したた)める男。愛する人を失って悲しい、という物語ではなく、失った人のことを心から愛していなかったことに気づくやり切れなさ、そして涙も出ない悲しみも押し寄せてこないことに対するもどかしさ、確実に心は壊れて傷ついているはずなのに、そのことに自分だけが気づかないまま日々が過ぎていく。そんな男が、義父に言われたある言葉を思い出し、行動に移す。
それは、原題の意味でもある「破壊」「解体」。壊れたものを修理するには、一度分解する必要がある。男は「修復」のための「破壊」を繰り返す。自宅の冷蔵庫、オフィスのトイレ、挙句には妻と暮らした家そのものまで壊し始める。その「壊す」という行為がなんだかとてもシンボリックに見えて、ちょっとしたフェティズムまで感じるほど。この映画、撮りようによってはちょっとしたヌーヴェルヴァーグ映画のようになっていたかもしれない。この映画の破壊にもし官能が加わっていたら、それは現代のヌーヴェルヴァーグだったかも。
簡単に言ってしまえば、妻を亡くした男のこころの再生の物語、ということになってしまうのだけれど、その過程が「破壊」であるという独自性と信憑性のつけ方が個人的に好きで、作品のタッチも私好みだった。
この邦題のつけ方も悪くない。映画を見た後で、ついついこの邦題について語りたくなってしまうって、ある意味すごく巧い戦略。実際、作品を見れば、このタイトルの意味が分かる仕組み。なるほどね、と。疎かにしてしまった妻への愛の有様を、妻亡き後、助手席のサンバイザーに張り付けたメモが語るという巧さね。しかもそれを一度、読まずに握り捨てているのも鍵。こういう映画、好きです。
あまりにもメタファーだらけの作品で、セリフで説明しない部分も多いので、本当に映画全体を見渡していないとなかなか理解しにくい部分もあるかもしれないし、主人公の気持ちに寄り添えないと「共感できない」の一言で片づけられてしまいそうなのだけれど、逆に主人公の気持ちに心が重なって、物語の意味が突然ふと分かる時がくると、すごく心に染みるいい映画だと思えると思う。私は偶然この映画が心にハマって、じっくりしみじみ胸が震えるような感覚でした。