ハイ・ライズのレビュー・感想・評価
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好き嫌いは分かれるが、唯一無二の個性を持った映画ではある
J.G.バラードのSF小説を映像化するにあたり、ベン・ウィートリーを監督に起用するという選択肢を誰が想像しただろう。しかしこの異色作と異色監督の相性は相当良かったらしく、斬新なビジュアルの中に危険な香りと艶めかしさが十二分に漂うエキセントリックな珍作に仕上がった。実際、本国でも「好き嫌いは分かれるだろうが、今年観るべき価値のある一本」として広く受け止められていたようだ。
タワーマンションに住み始めた主人公が徐々にこの中に階層社会や貧富の差を見いだし、両者の壮絶な闘争に巻き込まれていく過程は見応えがあるし、これが歴史上の様々な闘争を「マンションの高層と下層」という二極化した状態に投影したものであることも自ずと伝わってくる。ウィートリーならではのブラックな描写やマンション内の荒廃にも耐え、ずっと透明感あふれる個性であり続けるヒドルストンの存在感、彼が時折踏む軽快なステップも冴え渡っている。
鑑賞時は「トム・ヒドルストン? 誰?」だったが
劇中チョイチョイエロエロ光線を出すので後日調べて納得した。
劇場公開時鑑賞。原作未読だがあらすじは把握していたので、何で今映画化???と思いながら観に行ったが、バラードは未来予知でもできるのかね。
カオスな後半も今から考えればアリだったかも。
70年代ロンドンパンクと共振するバラード
WOWOWで放送されていたので見てみた。うーむ、なんじゃこりゃあw
原作のバラード作品を小生は何十年も前に読んでいるのだが、内容はすっかり忘れてしまっていた。こんなにつまらない話だったっけ…??? まあ、バラード作品を読む楽しみは、華麗な比喩に満ち満ちた晦渋な文体に幻惑されることにあるともいえるから、自ずから映画とは違うけど。
ハイライズ(高層マンション)の中で最上階は王族並みの暮らし、その下の層は貴族風の衣装でパーティ漬け、下層は借金まみれでひいひい暮らしてるのに子沢山…って、こりゃあまりにあからさますぎる英国階級社会の比喩だよなあ。
上流階級いや上層階層の住人たちは下層の連中を思うがままにいたぶって、下層の子供をプールから追い出したり、電気の使用量が多すぎるからと停電させたりして、医師の主人公だって下層だから小馬鹿にされている。
それに対する下層住人の鬱憤がたまり、停電を機にいっきに爆発。その後、人間の内部に潜む動物的本能が目覚め、文明的なものを次々に廃棄し、原始生活を謳歌し始めるというのが主なストーリー。とてもありえない設定と展開と人物たちではある。ただ、それでクダラナイ、つまらないと言ってしまってはおしまい。
原作の発表は1975年。怒れる若者たちから10数年を経て、セックス・ピストルズ等のパンクムーヴメントが燃え上ったのと機を一にする。そのイギリス社会の比喩が原作の執筆動機じゃなかったろうか。
とすると、バラードはパンクをこんなふうに、文明否定にまで押し広げた形で影響を受けたのかもしれないなあ。上海の焼け跡の終戦体験や原爆の爆発目撃以来、世界の終末が大好きな人だからなあ…というような興味は湧く。
残念ながら、それ以外には何もないかな。
追記)
最後のサッチャーの演説(確認できないが)の意味するところは、「揺り籠から
墓場まで」国民の面倒をみた挙句、英国病に陥った国の社会国家政策を批判する
趣旨で、要は国家が企業経済に過度に関与するなという内容。
それを作品のラストに持ってきた意図は監督のバラード愛、つまり無政府主義=文明否定=人類の終末を愛する気持ちを込めたものと受け止めた。
文明人というのは脆いものですね・・
今現在のコロナの世の中でこういう高層マンションではトラブル続出らしいですね、共用する場所も色々あるでしょうし、低い階の住人はエレベーターを使ったら嫌な顔されるし、悪い噂ばかりなぜかすぐ広まるし、上層階が低層階を見下す・・コロナ関係なく普段からそうか(笑)、場所によっては住人は勝ち組みたいなイメージでしたし(高層マンションて言葉すら似合わない勘違いしてる輩もたくさんいますが)、こういう場所に住んでみたらどんな感じだろうと考えたことはあっても、実際に住んでるのが一軒家でよかった。 映画はよかったです、上流階級だろうとあっという間に崩れ去りますね、エゴむき出し本性むき出し。 シエナ・ミラー素敵でした♪ 後半の裸の女性達も(笑)
上昇志向の無意味さ
バベルの塔の逸話は人間の思い上がりへの罰とされるが、その元である上昇志向を問題としているのではないか。神の前での平等により認め難いという事情もあるだろうが。資本主義は、市場での自由競争により上昇志向を助長すると思えるが、実は、多くの人が利益を得られる様にパイを広げるシステムでもある。極端な上昇志向は人の罪であり、楽園には程遠い。
当時、原作を読んだ方にこそお薦め
映画館で見逃したのでDVDで鑑賞。
原作が発表されたのが1975年。物語は当時からみて、やや近未来が舞台になっていた思われ、本作の時代も1975年頃に設定されているようです。でてくる小道具が懐かしい。電話機、ブラウン管テレビ、カセットテープレコーダー、クルマも旧い。音楽で使われているABBAのS.O.Sも1975年の曲なんですね。この作品を現代からみて未来のSFだと思って観ると混乱すると思われます。
原作(早川書房1980年)は当時一読しただけなので記憶が曖昧だが、こんなに男女の行為が前面に描かれていたかな?という気がします。
原作のラストは主人公の住んでいる棟隣の棟でも停電が起こるシーンで終わっていたと記憶しているのですが、それに較べると明るい?エンディングと思いました。
もう一度原作を読み直してから、観なおしてみたい一作でした。
人間の汚い部分をオシャレカオスで表現?
前半は「おぉ、これからどういう展開するんだ?」とワクワク。
後半は「おいおいおいおい。ナニコレ。え、え、え?」と戸惑い。
予告編を観て予想したものとはなんか違うこの展開。
でも眠くはならない。
私が想像していたのは、高層マンションあるあるの「高層でも下層に住んでる人とはわけが違うわ」と思ってるタカビー上層階の住人が痛い目に遭う映画。
実際は、世の中の金持ちと貧乏・妬み嫉み・人間の欲望・心の醜さをオシャレ且つカオスに描いたヒューマンドラマのよう。
まともな奴なんていないというメッセージにも感じた。
劇中で流れたABBAの「S.O.S」のカヴァー、かっこよかったなぁ。
グロいのがNGな人は一部シーンしかないですが、観ない方がいいと思います。
個人的には「ザ・フォロイング」のジョーキャロルを演じたジェームズ・ピュアフォイが登場したので上がりました。
思てたんと違う
ポスターのみの判断で、ただただオシャレな映画なんだろーなと思って鑑賞。
スーツや家具は本当にカッコよく、女性のクラシカルな衣装はセクシー。
中盤から、「社会的階級とタワマンの階を重ね合わせた」表現が色濃くなってくる。
あ、そっち系の映画なのね。
入眠しました。あーあ。
本音だけの社会はこうなる
だだっ広い土地にいくつかのマンションが建っている。ひとつのマンションはひとつの国家として描かれる。国家には階層があり、上の階ほど金持ちで権力がある。最上階に住むマンションの設計者が支配者だと思われているが、実際はそれほどの力はない。
停電をきっかけにパニックが起き、最初は下の階が被害を受けていたのがだんだん上階へと広がっていく。
死は日常的で性の倫理は忘れ去られる。結社があり、裏切りがあり、詐欺がある。反体制派がいて、権力による弾圧がある。変化を求める者と変化を受け入れられない者。どこまでも関わる者と傍観する者。
国家は常に矛盾を抱え、支配層も被支配層も本音を隠し続けることで、何とか体裁を保っている。しかしひとつのきっかけで各階級の本音が火山のように噴火する。映画は、いまの国家が薄氷の上に乗っていて、いつの日にかどうしようもなく崩壊してしまうだろうことを暗示している。そして共同体が崩壊した劣悪で理不尽な状況でもなお、人間は日常的に生きていくのだ。
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