「ユダヤの新年はザクロで祝う」アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
ユダヤの新年はザクロで祝う
ナチス問題の映画が続いていて、これも又一つのジャンル映画となりつつあると思う。
その中に於いて、今作品は『アドルフ・アイヒマン』という人間についての考察からの、決して特殊ではない全人類の持ちうる性質を問うているテーマを配している。
そういう作品なので、イェール大やら、オックスフォード大やらNYC大やら、名門中の名門、知の最上位階の人達の話だから、かなりインテリゲンチャなストーリーである。だが、面白いのはこの主人公である社会学者スタンレー・ミルグラム教授の伝記を自身で観客に語りかけながら進んでいくという、第四の壁を突破するストーリーテリングな座組となっている点である。
とはいえ、そんなに波瀾万丈な人生と言うことではないので、物語的には淡々と進んでいき、実験に於いての協力者の一人だった人の心臓発作の病気と同じ病気で亡くなったという皮肉位しか、面白くはない。
その、『アイヒマン実験』においての話が中盤まで展開されていくが、確かにこの実験そのものは非常に興味深く、『権威への服従』という、集団動物である人間の性を如実に物語る結果で、正に半数以上の人がその呪縛から逃れられないということに、寒気すら覚える。権力の元では人間は本当に無力であるということを一定の考えで証明してみせたこの実験は確かに世間一般には不都合な内容であり、尚且つその実験の内容に暴力や威圧といった方法も取られていた為、批判の的とされ、あわよくばこの教授でさえもアイヒマンの再来とまで嘯かれた始末である。とはいえ、この教授の小心ぶりも又、アイヒマン同様とすれば、当たらずも遠からじといったところか、そういうエピソードも又作品中に披露される。多分、浮気がばれ、妻に許しを乞うシーンや、強引なテレビPにはした金で作品監修を手伝わされるところ等は人間的な側面を表現しており、そういう人間がしかし権力に与すると人殺し迄加担してしまう危険性を警告として鳴らしている作品なのである。
物語性そのものはドラマティックではないものの、こういう作品は観ておきたい一本ではあると思う。